日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『遠藤淑子作品集 ヨシツネ』
『遠藤淑子作品集 ヨシツネ』
遠藤淑子 幻冬舎 ¥630+税
(2016年1月23日発売)
1985年のデビュー以来、長年「花とゆめ」など、白泉社の少女マンガ誌で活躍した遠藤淑子の作品集。タイトルどおり、あの有名な悲運の偉人・源義経の活躍を描いたお話……といっていいのだろうか?
牛若丸こと義経らしき少年は、カラス天狗が化けているのか、その逆なのか。橋の上では横笛でなく、リコーダーを吹いている(下校中の小学生か?)ので時代設定も謎だ。
この義経は日和見主義で、金に汚く女好きでもあるが、特にカラス天狗姿の時はミニサイズでドンくさいこともあって、なんだか憎めない。
長髪でなかなかりりしい弁慶は「カツアゲでーす」と宣言しながら義経を斬ろうとするものの、ツッコミに忙しいうちに巻きこまれてお供する立場に。
ゆる~い珍道中だが、基本的に悪人はちゃんと成敗されるし、人が不幸にならないですむし、義経もある目的を持っているようで……。
表題作には続きも期待できそう。できれば、東北へ戻った義経を裏切り自刃させたことで悪名高い奥州藤原氏最後の当主・藤原泰衡についても、新解釈をしてほしいところだ。
ほかにも、かくれんぼの思い出がその後に影響する「さがし人」、就職浪人中の女性とひと癖ある古本屋との交流を描く「犬の本屋さん」、人間関係に悩む小学生女子がベッド下であるものを見つける「ちっちゃいお兄さん」、ハトの視点で描かれた「イカロスの墜落」、明治時代頃に代筆業を営む先生と、常連の奉公人・新吉とのつきあいから、現代へ物語がつながっていく「手紙」の短編が同時収録されている。
そんなバラエティに富んだ主人公や周囲の登場人物(動物)たちは全体的に低体温で適度に毒もあり、マンガのキャラらしい情熱にあふれるわけでなく、要領よくもないが日々がんばって生きている、まさに等身大の存在で感情移入しやすい。
彼らが、シビアなこともあるけれど人生ってそう悪くないと気づく瞬間がとてもあたたかい。
デビューから30年経過しながらも、そんな著者の作風がぶれないこともうれしい。
ちょっぴり辛口な会話の応酬に、かえっていやされる。これからも独自のスタイルをひょうひょうと貫いてほしい。
<文・和智永 妙>
「このマンガがすごい!」本誌やほかWeb記事などを手がけるライター、たまに編集ですが、しばらくは地方創生にかかわる家族に従い、伊豆修善寺での男児育てに時間を割いております。