日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『真夜中のカフェでお茶を』
『真夜中のカフェでお茶を』第1巻
雪代鞠絵(作) 葉芝真己(画) 幻冬舎 ¥630+税 ※「葉芝真己」の芝は4画くさかんむり。
(2016年3月24日発売)
胃袋をつかむ料理、という言い方が一般的になって久しい。
おいしい食事が身体だけでなく心まであたためてしまうのは、人間の身体と心が、決して切り離せないという証拠。
だから胃袋をつかむことで恋が進展しても、不思議でも何でもないことなのだろう。
さてここにも、胃袋からハートまでつかまれてしまったひとりの青年がいる。
主人公・柚木(ゆぎ)は、有能な雑誌編集者だ。
その職業ゆえに、不規則で忙しい生活を余儀なくされている。
そんな彼が取材で訪れた「cafe&bar小日向」は、若きオーナーシェフの真庭(まにわ)が切りまわす人気店。
真庭の料理に惚れこんで柚木は店の常連となり、彼は美味な料理と、そして真庭に徐々にいやされていく。
だが柚木の心のなかには、もうひとりの男の存在があった。
大学時代からのセフレであり、マスコミにも人気の心理学者である瀬尾とは、いまだに縁が続いているし、想いも残っている。
だがある日、柚木は真庭に好きだと告白されて――。
原作のストーリーは、人気BL作家であり、すでにたくさんのマンガ原作の実績がある雪代鞠絵が担当している。
ていねいで、微妙な心理の動きを巧みに捉えた展開が魅力だ。
それを作画の葉芝真己が、おしゃれで繊細な絵柄でうまくマンガにまとめあげている。
原作つきだと多分にネームは増えるのだが、コマ割りや構成がきっちりしていて読みづらさはみじんもなく、むしろ読みごたえを感じさせてくれる。
柚木の心の揺れ動きを追いながら、ゆっくりと味わいたい作品だ。
また、柚木の担当する雑誌の内容や、心理学者である瀬尾の著作、真庭の出す料理など、ことごとく設定がつくりこまれていて、それがみごとなリアリティなのだ。
特に料理の説得力がすごい。食材の選び方はもちろん、それを描写するネームの表現もうまくて、まったくうなるばかり。
ともかく細部までしっかりした作品で、読んでいて安定感がある。
きちんと根っこのある、ストーリーの充実したボーイズラブ作品を望んでいた方にはうってつけの一作だ。
<文・山王さくらこ>
ゲームシナリオなど女性向けのライティングやってます。思考回路は基本的に乙女系&スピ系。
相方と情報発信ブログ始めました。主にクラシックやバレエ担当。
ブログ「この青はきみの青」