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【日刊マンガガイド】『セキセイインコ』第2巻 和久井 健

2014/07/17


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『セキセイインコ』第2巻 和久井 健 講談社 \565+税
(2014年7月4日発売)


裏切られた! そう感じた読者も、少なくないはず。
なにせ、綾野剛主演で映画化もされる前作『新宿スワン』は、歌舞伎町を舞台にした裏社会もの。ところが本作は、物語は同じく歌舞伎町から始まりながら、“記憶”をフックにした異能力のバトルものという、いい意味で予想を裏切る題材と内容に。さらに最新2巻は、予想を裏切るどころか、予想だにしなかった展開へ向かっていく。

高校生の金田七(なな)。目の前で同級生とおぼしき少女が死んでいるのに気づいたとき、七は同時にいっさいの記憶もなくしていた。そしてその記憶と引き換えであるかのように、彼にしか見えない魔人・メモリーが現れるようになっていた。
七はその謎を探るなかで、殺されたのが自分の恋人・島日輪子(ひわこ)であったこと、PNXという組織が自分を追っていること、そして事件には自分の父親であるという男が関わっていることを知る。
ここまでが1巻のストーリーだが、それはまだ幕開けに過ぎない。ここから先、本格的に物語も覚醒していく。

散りばめられた謎と、怪しさを漂わせる登場人物たち。交錯して混ざり合う、現在と過去、現実と幻覚。そして、圧倒的なのが、その“見せ方”と、それを可視化する和久井健のタッチだ。『新宿スワン』からさらに絵柄が進化して、抽象画や心象画とでも言うような大胆にして繊美なものになっている。
物語が進み語られる、真実。ネタバレとなってしまうため、ここでは触れられないが、2巻では七と父親の関係、七の出自、また『セキセイインコ』というタイトルに隠されたものも明かされている。
次巻3巻からは、1938年が舞台の“満州編”に突入するといえば、この作品の奥の深さ、幅の広さが伝わるだろうか。

記憶と繋がる“五感”も本作のひとつのテーマだ。
ここにいる自分は本当の自分なのか、すべての記憶が蘇ったときに自分は自分でいられるのか、そう本作は訴えかける。
ここにいることのリアル。じつはその感覚は『新宿スワン』でも触れられていたことで、底辺者としての現実と成功者となる夢が同作のテーマでもあった。

和久井健の作家としての魅力と本質はそのままに、たださらに進化した現実と虚像も、時間も時空も飛び越えながらひとつに結ぶマンガだ。



<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Summer」が発売中。DVD&Blu-ray『一週間フレンズ。』ブックレットも手掛けています。

単行本情報

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