日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『名づけそむ』
『名づけそむ』
志村志保子 集英社 ¥900+税
(2016年5月7日発売)
名前にまつわる10のオムニバス・ストーリー。
18年ぶりに再会した母娘の愛憎を描いた「name.1」、「愛子」という名前を持ちながらも愛嬌もかわいげもなく、29年間ずっと彼氏がいなかったOLと顔見知りの男子高校生のつかの間の交流を描いた「name.2」。
なんともそっけないタイトルが象徴するように、各話でモチーフとなる名前は、いずれも取るに足らない平凡な名前で、それ自体にはなんの意味もないのだが、登場人物らはそれに対して、かけがえのない愛情や希望はもちろん、痛みや哀しみやせつなさを抱えていて…。
そんな名前にまつわる人々の思いを、それぞれユーモアを交えながらもリリカルに繊細に描いてゆくさまは、文学さながら。楚々とした絵と語り口のなかに、静かな情念がゆらめく独特の世界観は、向田邦子なんかを彷彿させるものも。
「名前は子供への最初のプレゼントだとは、よく言ったもんね」
「私は一生、男の人に愛されることも、名前を呼んでもらえることもないんだろう」
自分の名前が好きという人はもちろん、そうじゃない人も、自分の名前を呼んでくる身近な人々について改めて考えさせられる1冊だ。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69