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『暗殺教室』第20巻 松井優征 【日刊マンガガイド】

2016/06/23


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『暗殺教室』


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『暗殺教室』第20巻
松井優征 集英社 ¥400+税
(2016年6月3日発売)


実写映画化TVアニメ化もされた大ヒット作『暗殺教室』が、第20巻でついにクライマックスを迎える。

「来年3月に地球を爆破する」と宣告した超生物が、椚ヶ丘中学校の落ちこぼれクラス「3年E組」の担任教師として現れた。E組の生徒たちは、地球爆破を防ぐため、日々超生物の「暗殺」にいそしむ。
しかし、触手を持つタコのような超生物は、ユーモラスな外観とは裏腹に、マッハ20で動きまわるハイスペックな能力を持っていてなかなか殺せない。
殺せない先生だから「殺せんせー」。生徒たちは、3月までに殺せんせーを暗殺して、無事に「卒業」することができるのか――というのが『暗殺教室』の基本設定である。

最新刊の第20巻の要点は、たった10文字で表現できてしまう(ネタバラシになってしまうので書かないが)。
そのようにシンプルに語れる内容なのだが、それでも泣けてしまう。それは殺せんせーとE組の生徒たちの間の177話のエピソードの積み重ねがあるからだ。

あらためて第1巻から再読していくと、松井優征が、この結末に向けてどれだけ周到にストーリーを組み上げてきたかがよくわかる。
こうしたバトルものでは、キャラクターの能力がインフレしがちなのだが、『暗殺教室』では、ごく普通の生徒が、殺せんせーの教育により徐々に才能を開花させていく、という成長物語の要素を取りこむことで、その弊から逃れているのだ。 バトルなどを通じて、殺せんせーの弱いところが少しずつ見えてくる一方で、「弱点は幾つも掴んだものの/殺せんせー暗殺には至らず」という状態が続くのだが、物語の終盤に近づいた第15巻で「決定的な弱点」が明らかになる(そして、この「弱点」は、第20巻で重要な意味を持ってくるのだ)。
その後、第16巻で殺せんせーの過去が明かされ、その真実に衝撃を受けた生徒たちは「殺せんせーを殺せるのか?」という葛藤にさいなまれるのだが、このあたりの登場人物の心の揺らし方は、じつに絶妙なのである。

また、『暗殺教室』を語るうえで忘れてはならないのは、椚ヶ丘学園理事長・浅野學峯の存在である。自らの教育理念を実現するうえで、E組の生徒が目立つことを苦々しく思う浅野理事長は、E組に不利な条件での競争を強いる。
暗殺バトルの合間に織りこまれた、殺せんせーVS浅野理事長の暗闘も見どころで、これがストーリーにおいてよいスパイスになっているのだ(殺せんせーを解雇できる理事長は「ラスボス」と呼ぶにふさわしいキャラクターと言えよう)。

ところで『暗殺教室』は、先に述べたように、実写映画、TVアニメといったメディアミックスも行われたが、各々がマンガと同じようなタイミングで完結した。
「終わり方がもっとも大事なマンガなので、アニメや映画の制作の方々にもシナリオを渡し、皆が同じエンディングを迎えられるように/それぞれが綿密に準備してきました」(第18巻での松井優征の言葉)
同様の手法は、三部けい『僕だけがいない街』でも用いられたが、どちらの場合も映画・アニメの各々によい効果をもたらしている。手間はかかると思うが、こうした試みが今後も増えてくればと思う。

完結巻となる第21巻は7月4日の発売。
3年E組の生徒たちが、どのように卒業していくのか、今から気になって仕方がない。



<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。、「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。「2016本格ミステリ・ベスト10」(原書房)でミステリコミックの年間レビューを担当。

単行本情報

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