日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『おとなりボイスチャット』
『おとなりボイスチャット』 第3巻
こじまなおなり 徳間書店 ¥620+税
(2016年6月13日発売)
田力(たぢから)の部屋の壁は薄い。
隣の部屋に住む陽奈子(ひなこ)の声が筒抜け、こっちからも筒抜け。
2人は次第に壁越しにおしゃべりするようになった。しかし陽奈子は引きこもりで、対人恐怖症。
会うことはできない。
それでも2人は会話するのが心地よく、いつしか「ただいま」「おかえりなさい」と返す仲になった。
第3巻になっても、陽奈子の姿はいっさい見えない。
相手の情報が「声だけ」の状態で、恋愛は成立しうるのかを描いた作品だ。
現実では、ネット上で知りあってほぼ相手の素性がわからないまま結婚までいった、という例はそこそこある。
田力の心もまた、見たこともない陽奈子に、ほぼ揺らぎなく向いている。
会ったら幻滅するのではないか、という問いは全編にわたって常にある。
陽奈子側も、幻滅させるのではないか、とおびえている。
田力を好きになった女性、美月が大きな鍵だ。
彼女は顔もよくスタイルもいい、完璧な美人だ。
気も優しいし、彼の助けになろうと相談にも乗ってくれる。
美月が彼に恋をしているのは、だれが見てもバレバレ。
しかし彼は、彼女に対して好意は持っていても、好きになる様子は今のところまったくない。
「田力くんはそういうの(顔や胸)で選んだりしないよ」と彼女は、顔を合わせなくても心が通じあうことができると、ちゃんと理解している。
第3巻では田力と陽奈子が、お互いテーブルを壁にあてて、いっしょに(それぞれの部屋の)鍋を食べている。
見ていてこちらが照れてしまうくらいに、ほほえましい。
ただどのシーンをとっても「自分だったらどうするのか」という問いが頭から離れない。
壁向こうの陽奈子を好きになれる人は多いはず。
問題は愛し続けられるかどうかだ。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」