365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
7月8日は蜂須賀正勝(戦国武将)の命日。本日読むべきマンガは……。
『講談社漫画文庫 豊臣秀吉 異本太閤記』第1巻
山岡荘八(作) 横山光輝(画) 講談社 ¥485+税
きょう7月8日(天正十四年五月二十二日)は蜂須賀正勝の命日である。
正勝は戦国時代の武将であり通称は小六といった。もとは尾張の国衆であり、秀吉の直臣として活躍。彼の子・家政は阿波を与えられ、徳島藩の祖になった。
講談や『太閤記』では、秀吉と出会う前は「野盗の親分」と記述されている。そのため正勝の子孫である蜂須賀茂韶公爵(徳島藩第14代藩主、文部大臣、東京府知事、貴族院議長)は、宮中の応接室で紙巻煙草を1本失敬したところ、明治天皇から「蜂須賀、先祖は争えんのう」と言われたとの逸話が残る(『街道をゆく43 濃尾参集記』司馬遼太郎)。
また、NHK大河ドラマ『秀吉』では大仁田厚、『功名が辻』では高山善廣がキャスティングされ、「プロレスラー枠」などと呼ばれることが多いのも、野盗出身という荒々しさをイメージしてのことだろう。
しかし、正勝を「野盗の親分」とする説は、あくまで創作上でのこと。実際は蜂須賀郷の国人領主であり。はやくから美濃の斎藤道三に近侍したとの説もある。
今回紹介する、山岡荘八の小説『豊臣秀吉』を原作とする横山光輝のマンガ『豊臣秀吉 異本太閤記』では、蜂須賀小六は、南朝方の血筋・竹之内波太郎の配下である野武士として登場する。
日吉(のちの秀吉)との矢作橋での出会い、墨俣一夜城など、秀吉との名エピソードが描かれていく。
口が達者な秀吉との丁々発止のやり取りは小気味よく、気持ちよく読み進めていけるだろう。
主役である秀吉はホラとハッタリで成り上がっていくので、それに対して合いの手を入れる“相方”としての役割を小六が担う。
なお、この役どころは、序盤は小六、中盤は竹中半兵衛、終盤は黒田官兵衛へと引き継がれていく。
大河ドラマなどに見られる「パワー型」の用心棒的な存在ではなく、腹心としての知恵者として描かれているわけだが、小六をそのように描く作品は非常に珍しい。
この『豊臣秀吉 異本太閤記』には、真偽が定かではない逸話や、後世の創作話もふんだんに盛りこまれている。そのため「戦国時代のリアリティ」は感じられないかもしれないが、戦国史のおおまかな流れを理解したり、通説や俗説を知ったりするには最適であり、なによりも物語的な楽しさでは横山光輝の歴史マンガのなかでも群を抜いている。
史実での小六は、家督を嫡男・家政に譲ったあとは大坂城下の御殿山屋敷に暮らし、晩年まで秀吉の側に仕えた。
余人には知れぬ絆と結びつきが、2人のあいだにはあったのだろう。
『豊臣秀吉 異本太閤記』で、若き日のはつらつとした秀吉ー小六のバディ感を楽しんでほしい。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama