日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『折れた竜骨』
『折れた竜骨』 第1巻
米澤穂信(作) 佐藤夕子(画) KADOKAWA/エンターブレイン ¥680+税
(2016年7月15日発売)
『折れた竜骨』は、ファンタジーと本格ミステリを融合させた、米澤穂信の同題の原作を『ヤングガン・カルナバル』(原作・深見真)やゲームが原作の『テイルズ オブ エクシリア SIDE;JUDE』などのマンガ化を手がけた佐藤夕子がコミカライズしたものである。第1巻と第2巻が同時発売された。
米澤穂信は、最新作『真実の10メートル手前』が第155回直木賞候補となるなど、今もっとも注目すべき作家のひとりである。『折れた竜骨』は、その米澤が2010年に東京創元社の叢書「ミステリ・フロンティア」の7周年記念作品として書き下ろした長編。
発表されるや「このミス」「本ミス」「週刊文春」などの各種ミステリランキングを席巻し、第64回日本推理作家協会賞を受賞した名作である。
『折れた竜骨』は、12世紀のヨーロッパを背景に、ロンドンから船で3日のところにある、架空の島・ソロン諸島を舞台にした本格ミステリである。
人の行き来が難しい孤島で、領主が殺害される。
領主の娘・アミーナは、放浪の騎士ファルク・フィッツジョンと、その従士の少年ニコラとともに、犯人を追及する。
捜査を続けるうち、領主殺しは「暗殺騎士」の魔法により操られた者――それは〈走狗〉と呼ばれる――によってなされたことが明らかになる。
限定された容疑者のなかから、アミーナたちは「走狗」をあぶり出すことができるのか……。
『折れた竜骨』の世界では、魔術が現実のものとして存在する。
「それでは何でもありになるじゃないか」と誤解される向きもあろうが、魔術にも一定のルールは存在するため、その法則を抑えておけば、犯人を指摘することは可能なのだ。
まさしく第2巻の帯にあるとおり「理性と論理は魔術をも打ち破る」というわけだ。
マンガ『折れた竜骨』は、その原作を極めてていねいにコミカライズした作品である。
「極めてていねいに」と記したのは、『折れた竜骨』は「ファミ通コミッククリア」にて月1回のペースで配信中なのだが、その1回ぶんがきっちり原作の1章にあたるのだ。
読み比べてみると、佐藤夕子は原作の場面やセリフを忠実に再現している。
しかも、各回には後々の伏線となる場面があるのだが、そうしたところも抜かりなく描いてある。
結末を知ったあとで、再読してみると「ああ、ここをきちんと描いている」と納得させられることうけあいである。
第2巻の巻頭には、登場人物表に加えて、「十二世紀の欧州」の地図が掲載されている。
この地図は、「イングランド王国」「神聖ローマ帝国」などの国名が入った実際の歴史にもとづくもので、作品の時代背景を理解するのに役立つ(たとえば、ファルクが来たという「トリポリ伯国」と「ソロン島」との距離感などが実感できる)。加えて事件が発生する架空の島・ソロン諸島の地図もある。
これらの地図は、原作の小説にはなかったので、コミック版オリジナルのものと思われる。
こうした配慮はうれしいところだ。
このあと、アミーナたちは、海を渡ってくる侵略者「呪われたデーン人」たちと戦いを迎えることとなる。
彼らとの迫力ある戦闘シーンも、原作では読みどころであったのだが、それがどのように映像化されるのかが、今から楽しみである。
なお、7月には米澤穂信が原作の〈古典部シリーズ〉をコミカライズした『氷菓』の最新刊(第10巻)も発売されている。こちらもあわせて手に取っていただきたい。
<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。、「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。「2016本格ミステリ・ベスト10」(原書房)でミステリコミックの年間レビューを担当。