日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『盆の国』
『盆の国』
スケラッコ リイド社 ¥630+税
(2016年7月11日発売)
新感覚のオリジナルマンガ公開サイトとして注目を集めている「トーチweb」にて、連載されていた作品が単行本になった。
お盆に帰ってくる「ご先祖さま=おしょらいさま」の姿が見える女の子・秋。
彼女にとって、お盆は会えないはずの人たちに、もう一度会える楽しい季節。
このままずっとお盆だったらいいのに……。ふと頭に浮かんだ妄想が現実となり、同じ1日を繰りかえすことになった秋は、浴衣姿の謎の青年・夏夫と出会い――。
幽玄のおもむきを感じさせる、お盆の京都の街。そのあちこちに「おしょらいさま」がひっそりと蠢く光景は、ゆるキャラのような愛らしい造形もあいまって、ジブリアニメを喚起させるファンタジックな異世界感満点!
ストーリー自体はザックリといってしまえば、『時をかける少女』×『思い出のマーニー』といった感じなのだが、おしょらいさま以上に現実に着地していない多感で夢見がちで繊細な少女の季節の終焉が、ほっこりとイマジネイティブに描かれていて、甘酸っぱくせつない「ひと夏の青春SFジュブナイル」に仕上がっているのがイイ。
とにかくよけいな説明は不要。夏が終わる前に、この不思議で心地よい世界に無心で身をひたしてみてほしい。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69