日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『買厄懸場帖 九頭竜KUZURYU』
『買厄懸場帖 九頭竜KUZURYU』 第2巻
石ノ森章太郎(作) 宮川輝(画) リイド社 ¥650+税
(2016年8月27日発売)
最近の若い読者には表題の「懸場帖(かけばちょう)」とは、耳慣れない言葉であろう。
これは、かつて「富山の売薬」として行商人が薬を預け置く得意先について様々な個人情報を記載した一種の顧客帳簿。
薬を前もって預けておき、必要に応じて使ったのちに代金を徴収するという「先用後利(せんようこうり)」の経営システムは当時としては画期的で、現在も薬事法などの制限を受けながらも運用されている。
閑話休題。
本作の主人公・九頭竜(くずりゅう)は、この懸場帖を手に諸国をめぐる「売薬」商人だが、同時に彼は1件90両であらゆる厄介事の始末を請けおう「買厄」人でもある。
九頭竜が各地で出会い「買厄」するのは、貧しさゆえにしいたげられ、また貧しさゆえに悪事に手を染める“普通の人々”で、毎話完結のエピソードのなかにも何かしらモヤモヤと割りきれないものを残す展開と、稼業なれば人斬りも辞さない九頭竜の爽快なアクションに、往年の『必殺』シリーズを想起する人も多いのでは?
第2巻中盤からは、九頭竜が持つ「九つの頭を持つ竜を彫刻した前金物」に隠された財宝の秘密をめぐり、九頭竜と武田一族、そして九頭竜の父が所属していた謎の行者集団による、三つどもえの死闘が始まる。 この前金物がじつは九頭竜の母を殺害した仇敵の手がかりでもあり、この秘密を知る者が母の死に関与しているとあって、九頭竜も前金物を死守して血の刃をふるう。
原作者・石ノ森章太郎が描いたせつなさあふれるヒロイズムのDNAは、本作にも充分に受けつがれているのだ。
本巻では3枚の所在が明らかとなり、残る前金物は6枚……。
一度は武田一族の手に落ちた九頭竜を救って前金物の秘密を暴こうとする“第4の勢力”も登場して、いよいよ混戦は必至。
これはもう、続巻が見逃せない!
<文・富士見大>
編集・ライター。特撮のあれこれやマンガのあれこれに携わるほか、歴史ものもたしなむ。『手裏剣戦隊ニンニンジャー公式完全読本 天下無敵』や、ただいま絶賛発売中の『東映ヒーローMAX Vol.54』にも参加しています。