『ダイヤのA』第42巻
寺嶋裕二 講談社 \429+税
(2014年7月17日発売)
さすが、作者が元・高校球児だっただけのことはある!
外野へと抜けていく当たりひとつとっても、そのアングルや球の勢いは、グラウンドに立ったことがある人間だからこそ描ける、迫力に満ちている。
主人公のチーム・青道高校野球部は、都内の名門校でありながら、しばらく甲子園から遠ざかっている。そんな強豪校特有の苦悩が描かれる構図も、なかなか珍しい。
実力的には、いまだダイヤの原石である左腕・沢村と、同じ1年ながらエースナンバーを背負っている降谷が、しのぎを削りつつ、どのように成長していくかが見どころだ。
最新42巻では、ついに3年が引退して新チームになってからの、秋季大会決勝戦に突入。秋季大会って、高校野球マンガでは飛ばされがちだけど、センバツの出場権を得る上で重要な大会なんですよ!
青道高校だけではなく、対戦校のメンバーも一人ひとり丹念に描かれる。試合前のシートノックさえも見逃せない。
練習風景のなかで、「キャッチャーが捕球時にミットを被せすぎるとストライクに見せようとするアピールがすぎて審判の印象が悪くなる」なんてことが、さりげなくわかったり。
試合前、選手が観客席を見上げての「今日ブラスバンド来てくれてんっスね」というセリフから、平日の試合だとなかなか応援ってこないはずだよね……と気づかされたり。
高校野球マンガならではともいえる小ネタも充実。
試合本番はもちろん、選手たちの日常まで、現代の高校野球の世界をあますところなく伝えてくれる。
読むほどに、高校野球、そして「高校野球マンガ」が好きになる作品である。
主人公たちの3年夏まで物語が続くとすると、軽くトータル300巻くらいはいっちゃうんだろうけど、どこまでもついていきますとも。
ひとまずは、はやく甲子園に連れてって!
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
「ド少女文庫」