日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『身から出た鯖 七番出汁』
『身から出た鯖 七番出汁』
中崎タツヤ 少年画報社 ¥925+税
(2016年8月22日発売)
昨年8月、還暦を機に断筆を宣言した中崎タツヤ。
本書は中崎の人気シリーズ『身から出た鯖』(略して身鯖)の復活編にして最終編となるもの。
コミックス未収録分の短編作品が徹底収録されている。
90年代、吉田戦車や中川いさみらと共に、不条理ギャグブームの旗手として人気を集めた中崎だが、ごく平凡な人々のごく平凡な日常に潜む「変」を、淡々と投げやりなタッチで描いた作品世界、その脱力感と独特の間が醸しだす「おかしみ」は、当時からどこか達観した枯れた味わいがあった。
その「七番出汁」といえば、ほとんど出がらし? と思ったら、とんでもない。
ギリギリまでよけいなものをそぎ落とした絵と語り口。
その枯淡な味わいの向こう側には、かめばかむほど……なスルメ的彼岸の世界が広がっている。
近年は究極の断捨離ストとして知られ、『持たない男』というエッセイ集も出している中崎。
みごとになんにもないようで、本当に必要なものはちゃんとある。
人を避けてヨタヨタと歩く犬の足どり。
あたたかな交流に見当違いの説教で割って入り、見事にスルーされた男の沈黙のあとの「ふむ」というつぶやき。そんな些細だがグッと突き刺さる、しみじみと味わいたい彼岸の一冊だ。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69