日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『雪花の虎』
『雪花の虎』 第3巻
東村アキコ 小学館 ¥694+税
(2016年9月12日発売)
年明けからドラマ版もスタートする『東京タラレバ娘』も絶好調の東村アキコが挑む、スケールの大きな戦国ロマンの第3巻。越後の名将・上杉謙信(=長尾景虎)の正体は女だった!?――という仮説をもとに、運命に翻弄されるヒロインの一代記が描かれる。
この第3巻では、15歳で初陣を飾り、いよいよ「毘沙門天の生まれ変わり」と恐れられた軍神が頭角を現す場面から幕を開ける。あいかわらず身体の弱い兄・晴景に業を煮やした家臣・黒田秀忠がまさかの謀反。しかし晴景に事を収める力はなく、景虎に依頼することに。
兄想いの景虎は、長年、父・為景に仕えてきた老臣に容赦なく牙をむく。
乱世ならではの裏切りや骨肉の争いが複雑化していくなかで、強烈な新キャラも登場。
謙信が山奥で出会った大男、後の鬼小島弥太郎だ。
弥太郎は超強力な豪傑として名高い謙信の側近だが、実在していたのかどうか確固たる証拠が残っていないミステリアスな人物。
本作では少し異国の血も混じっていそうな、長髪×がっしり体型の大男として描かれている。
暴れん坊で食いしん坊でドスケベの野生児だが、姫武将の右腕として頼もしい存在が加わった(東村の大好物であるタオル男子の面影もアリ)。
終盤では病床の母を前にして、離れ離れになっている家族が久しぶりにひとつになる感動的なシーンも。合戦メインになりがちな戦国モノでも、こうした人間ドラマがしっかり挿入されるのがうれしい。
また、巻末のおまけマンガで紹介されているのが、本作の意外なこだわり。
それは登場人物の着物の柄。あまり知られていないが、友禅のような染物技法は戦国時代に存在せず、わりとざっくりとした柄が多かったという。
このあたりの時代考証をきっちりとしているのも、着物好きの東村ならではだ。
上杉謙信の永遠のライバル・武田信玄の本格的な出番までは、もう少しかかりそう。
次巻では仲睦まじい兄弟(兄妹)だった晴景と景虎が、抗えない潮流に飲みこまれるかたちで対峙することになる。
物語は序盤のクライマックスへ突入だ。
<文・奈良崎コロスケ>
中野ブロードウェイの真横に在住。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。今秋公開予定の内村光良監督『金メダル男』の劇場用プログラムに参加しております。