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『地底旅行』 第2巻 ジュール・ヴェルヌ(作) 倉薗紀彦(画) 【日刊マンガガイド】

2016/10/19


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『地底旅行』


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『地底旅行』 第2巻
ジュール・ヴェルヌ(作) 倉薗紀彦(画) KADOKAWA ¥680+税
(2016年9月26日発売)


ジュール・ヴェルヌが、1864年に発表したSFの古典作品『地底旅行』を、『魔法行商人ロマ』などの倉薗紀彦がコミカライズした作品。

舞台は、1863年のドイツのハンブルク。主人公は若き学者アクセル。
物語は、アクセルの伯父である、鉱物学者のリーデンブロック教授がルーン文字で書かれた稀少本を買ってきたことから始まる。
その古書には、ルーン文字が書かれた紙切れ(羊皮紙)がはさまっていた。

そこには、16世紀の錬金術師アルヌ・サクヌッセンムが記した暗号文がのこされていた。
暗号文を解読した、教授とアクセルは「地球の中心に到達する」入り口があるというアイスランドに向かい、現地で雇った大男のハンスとともに地底探検へと旅立つのであった。

本作の原作は、先に述べたとおり、19世紀に書かれた小説である。それでいて本作を読んでも古くさい感じがしないのは、主人公・アクセルのキャラクターによるところが大きいと思う。
アクセルは、暗号文を(偶然に助けられてだが)解明する、というところで主人公らしさを見せるものの、その後の地底探検では、道に迷ったりして足を引っ張ってしまう。
そのたびに、リーデンブロックやハンスに助けられる、という感じで、まるでいいところがないのだ。アイスランドに旅立つ際にも、止めてほしくて、婚約者のグラウベンに相談をしたら「私が女でなかったら 真っ先に 付いていくのに…」と背中を押されている始末である。

アクセルのようなキャラクターは、今のライトノベルやラブコメにいそうな等身大な(悪くいえばヘタレな)人物である。
そういう主人公なので、読者は現代の作品と同じ感覚で作品世界に入っていけるのだ。いつの時代でも受け入れられるようなキャラクターを作り上げたヴェルヌの才能には脱帽させられる。

そうした原作の力に対して、作画のほうも負けていない。
大ゴマを効果的に用いた倉薗紀彦の作画は絶妙で、ヴェルヌが描いた「地底世界」をみごとにビジュアル化しているのである(また、特撮映画のポスターを思わせるコミックスの表紙絵は、じつに格好いい)。

ちなみに『地底旅行』は、以前にもコミカライズされている。 1978年に主婦の友社の〈TOMOコミックス 名作ミステリー〉という叢書の1冊として刊行されたもので、手塚プロの七瀬カイがコミカライズを手がけた。ただし、この叢書に全作品を164ページに収めるという制約があったためか、七瀬の『地底旅行』は、はしょった内容になってしまっている。 第2巻の帯の「今こその完全漫画化!」という言葉は、今回は原作に忠実にマンガ化していくぞ! という気合に満ちた宣言だといえよう。

原作小説と読み比べてみると第2巻のラストで、全体の3分の2といったところである。
次巻で完結となりそうだが、倉薗が波乱に満ちた地底での冒険と、そこからの豪快な脱出行をどのように描いてくれるかが楽しみである。



<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。、「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。「2016本格ミステリ・ベスト10」(原書房)でミステリコミックの年間レビューを担当。

単行本情報

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