日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『魔法少女育成計画F2P』
『このマンガがすごい! comics 魔法少女育成計画F2P』 第1巻
遠藤浅蜊(作) 柚木涼太(画) マルイノ(キャラクター原案) 宝島社 ¥640+税
(2016年10月22日発売)
「このマンガがすごい!」の兄弟誌のライトノベルレーべルから刊行中の小説『魔法少女育成計画』。
当「このマンガがすごい!WEB」でも月刊の情報発信コーナーを設けているほか、作者とイラストレーターによる特別対談を掲載するなどイチオシの作品だ。
今月からついにアニメ版が放送スタート、注目度はますます上がっている。
まずは、本編の大枠から改めてご紹介しよう。
魔法少女になって戦う設定のソーシャルゲーム「魔法少女育成計画」のユーザーから数万人にひとりが、超人的身体能力と固有の魔法を備えて人助けする本物の魔法少女に選ばれる。
ところが、魔法の国が魔法少女の人数枠を半分に削減する決定を通知したことで事態は急転直下。
競争に敗れれば“削除”される仕様変更に直面し、魔法少女たちは過酷なサバイバル戦を余儀なくされていく……という内容だ。
『魔法少女育成計画』の特徴のひとつは、魔法少女の活動をソーシャルゲームへの参加として描く点。
「ユーザーに一方的な仕様変更を押しつけるソシャゲ運営」を魔法少女の運命に結びつけたのが秀逸で、ソシャゲ花盛りなご時勢、私たちは「ひどい運営だ!」という感覚を登場人物と生々しく共有できる。
「バトル魔法少女を題材にしたゲームの仕組みで戦う魔法少女」という二段階をふみ、古典的な魔法少女だけでなくバトル魔法少女が広く認知された現在の状況まで取りこんだ二重のジャンルメタ化もうまい。
さて、そんな『魔法少女育成計画』劇中のゲーム運営は都市ごとに行われている。
そのため、「一方、このエリアではこんなことが……」というスピンオフを作りやすい。
『魔法少女F2P』も、その一環だ。
「このマンWEB」で8月から精力的に連載され、いよいよ単行本第1巻の発売を迎えた外伝マンガである。
人の死をキャンセルできる特別な魔法少女が「F市」にいる。
そんな情報をつかんだ魔法の国が、組織へのスカウトのため調査員を送りこむところから物語は幕開ける。
現場へやってきた人事部門の魔法少女・アルマとその先輩・すぴのんは、町をすっぽり覆い包むドーム状の巨大結界を発見。
入るには条件があるらしい結界内へ先行したすぴのんをあとから追いかけたアルマは、何者かに襲われた先輩の亡骸に出くわし、直後に謎の魔法少女たちに捕縛されてしまう。
それは、巨大結界に立てこもり、魔法の国から送られる刺客をひとりずつ迎え撃つ魔法少女集団、自称「レジスタンス」。
アルマを生け捕りにした彼女たちが口にした言葉は、「革命」。はたしてその意味は?
異変を察知した魔法の国はさらなる刺客を送りこみ、両陣営のかけひきが加速する……。
『F2P』の見どころは、やはりシチュエーションのおもしろみだろう。
『アンダー・ザ・ドーム』めいた都市スケールの結界を挟んで、運営に対して篭城戦で反抗する魔法少女たち。
魔法少女VS魔法少女に、魔法少女集団VS魔法の国という大きな層をかぶせ、さらに魔法の国のほうも部門ごとに思惑が摩擦を起こしているという、厚みのある仕立てが読みごたえバツグンだ。
レジスタンスの思惑が伏せられるなか、ストーリーの進行役として、アルマの上司で魔法の国側の魔法少女・ジューべが重要な役を果たすのも見逃せない。
彼女は24時間に一度、紙に書いた文章の内容が当たっているか外れているか判明するという能力をつかって、F市で何が起きているのか? 連絡を絶ったアルマたちは生きているのか? と推測を重ね、少しずつ事態をつかんでいく。
結界によって動きを隠すレジスタンスと、条件つきで確実な情報を入手できる魔法の国。
両者の情報戦が、個別の戦闘シーンとは別の次元で火花を散らして緊張感を生んでいる。
今回出た第1巻では、以上の構図を固める第7話までが収録。
ぜひお手に取って、“まほいく”ワールドの奥行きを深めてくれる物語の始まりをともに目撃していただきたい。
原作者・遠藤浅蜊先生みずからの肝煎りなので原作本編との整合もばっちりだ。
なお、個人的にひじょーにツボだったのが、アルマちゃんの魔法。
「他人を舌で舐めるとその人物の個人データを記した説明書が生成される。情報の詳しさは舐めた面積しだい」というもので、少女が少女の二の腕を必死にペロペロする絵面にフェティッシュなときめきを覚えることうけあいです。
汗ばんで息を乱し、上気した表情をきめ細やかな線で描き出すページの臨場感は、作画を担当する柚木涼太先生の面目躍如。
男性TSした子がほかの女子のパンツを奪って穿いてハァハァする『ボクの女子力はあの娘のパンツに詰まっている。』でおなじみ柚木先生のフェチ画力の高さ、シリアスな本作でもきらりと光る!
<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7