日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『狂気の山脈にて ラヴクラフト傑作集』
『狂気の山脈にて ラヴクラフト傑作集』 第1巻
田辺剛 KADOKAWA ¥680+税
(2016年10月24日発売)
これまで『魔犬』、『異世界の色彩』、『闇に這う者』などのラヴクラフト作品をマンガ化してきた田辺剛が取り組む長編作品の第1巻。ラヴクラフト作品では珍しい長編である『狂気の山脈にて』は南極大陸を舞台に、暗黒宇宙神話的な存在と邂逅してしまう学者たちの学術探検隊を描くもの。
冒頭から、探検隊の分隊が何者かに凄惨に虐殺された形跡を主人公らが発見する。この場面が、純白に覆われた静寂と極寒の南極の不気味さとあいまってじつに恐ろしい。
田辺の独特の筆致はリアリティがあるのに、歪に破壊された死体が暗闇に浮かび上がるさまは、そこで何が行われたのかわからないのと同様に謎に満ちていて不可解きわまりない。
分隊の潰滅をまのあたりにした探検隊は、その直後にさらに異様なものを発見する。それが本作のタイトルにもなっている「山脈」だ。
すべてを覆い尽くすかのような雪原の白のなかに突然に浮かび上がる漆黒の山々。自分が狂っているのか、世界が狂っているのか、探検隊のメンバーの陥る絶句状態に読者はきっとシンクロしてしまうだろう。
未知の大陸に新たな発見を求めて意気揚々と挑む学者たちの明るい希望が、文明社会から孤立した極寒の地でうち砕かれ、圧倒され、絶望をただ深めていく。
極地で遭遇する、求めていたはずの未知。
人智を凌駕するその脅威への扉が今また開かれた。
<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!』のアンケートにも回答しています。
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