日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『担当編集ボツ子さん』
『担当編集ボツ子さん』 第1巻
ひみつ 芳文社 ¥819+税
(2016年10月27日発売)
売れない漫画家・田中一人(たなか・かずと)。
彼の新しい担当編集の刺子愛(さしこ・あい)は、露出度激高の女王様だった。
ムチをふるいながらボツ出しをする彼女、セリフの1つひとつが鋭い。
「クッソつまんないですね」
「先生の女の子かわいくないんです」
「描く価値はありません」
ボツ、ボツ、もいっちょボツ。
つらい……。
じつは刺子は、田中が昔描いたマンガの熱心なファン。
彼といっしょにマンガを作ることが楽しくてしかたない。
次第に彼自身にどんどん惹かれるようになった。
それがおかしな方向に振りきってしまい、サディスティックな言動に出てしまう。
いうなればサドデレ。もっともムチを持っていても、実際の使い方はわからないほどウブな様子。
序盤は彼女のドSっぷりが楽しい。徐々に田中の暴走妹のまなや、幼稚ドジ編集犬井なども登場し、刺子の恋愛模様のほうにスポットが当たり始める。
作家にとっての「ボツ」は、恐怖ワードだ。
作品を読んでいると、田中が刺子のひと言ひと言におびえるのはこっけいに見える。
しかし漫画家は、編集に作品を預けチェックされている時は、繊細でおびえているものだ。
「ボツ」とは、読者にとっておもしろくないものをせき止めるために必要な行為でもある。
失敗作を世に出して痛い目にあうのは、作家本人だからだ。
いうなれば「厳しくも愛情を注いでくれる編集」の理想像、あるいは擬人化。
刺子が編集として優れているのは、非常にマメなところだ。
仕事にきっちり立ち向かって、よいものをつくるべく日々努力している。
好意があるからとはいえ、何度も彼に直接会いにいっては、的確にアドバイスを出す。
ボツにするだけの理由を、ちゃんと作家に提出する。
彼女がほかに担当している作家が、アニメ化や映画化するのもわかる。かなりのすご腕だ。
それでも、それでも……ボツは怖いのだ……!
田中が彼女の期待に応えながら、ボツ地獄から這い上がるのが楽しみ。
であると同時に、彼が売れたら2人の関係はどうなるんだろう?
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」