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『ベアゲルター』 第3巻 沙村広明 【日刊マンガガイド】

2016/12/11


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『ベアゲルター』


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『ベアゲルター』 第3巻
沙村広明 講談社 ¥600+税
(2016年11月22日発売)


「ゲルマン法で、殺人者もしくはその一族が、贖罪として被害者の遺族に支払う金」を意味する「Wergeld」からとられたタイトルに、この作品のテーマが適確に表現されているといってもいいだろう。 もちろん、ひねくれ者の沙村広明の手になるこの物語をひとつのテーマに集約して語るのは素朴すぎる。

『おひっこし』『ハルシオンランチ』の2系統に沙村作品を分類するとして、巷で話題の『波よ聞いてくれ』が『おひっこし』路線だとすれば、この『ベアゲルター』は『ハルシオンランチ』の路線だ。

要するに、現代日本を舞台に日常生活を描いている『おひっこし』と『波よ聞いてくれ』に対して、リアリティを凌駕した超絶世界を描くのが『ハルシオンランチ』と『ベアゲルター』だ。
もっとも『ベアゲルター』には、(まだ)『ハルシオンランチ』のようなあからさまにSF的な設定は出てこない。

その点、『ベアゲルター』は『ハルシオンランチ』というよりも『無限の住人』にむしろ近い。
『無限の住人』のような超人的なバトルを、『波よ聞いてくれ』のように妙齢の女性を主人公にして現代日本を舞台に描いているといえばいいだろうか。

現代日本を舞台にしていると言っても、本作はヤクザが牛耳る売春島「石婚島」を中心に展開する。石婚島を支配するヤクザ「噪天会」のバックでは、怪しげな製薬企業組織「ヒルマイナ社」が糸を引いていて、本作のセクシャルバイオレンスアクションという性格に、さらに医療系の国際的陰謀論という土台を与えている。

もっとも今巻では、そういったスケールの大きな話は特に描かれず、もっぱら主人公シノブの実家を「背乗り」で乗っ取った謎の夫婦との対決が主軸だ。
あとがきで著者が提唱する「HUKAK(派手な動きの外連味のある格闘技)」がいかんなく発揮され、『サザエさん』や『ドラえもん』に出てきそうな普通の一戸建て家屋の屋内や庭先、あるいはその隣の町角で、インドの古武術カラリパヤット、ロシアの軍隊武術システマ、そしてカポエイラ(これは次巻に登場とのこと)が披露され、命がけの異種格闘技戦が繰り広げられる。

血と涙と胃液と愛液、そのほかに腸液やら羊水やら様々な体液が、アドレナリンとともに闇に飛び散る本作を読んでいると、今日もがんばれる気がしてくるから不思議だ。
どいつもこいつも「肛門から口まで貫いてやる」!



<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!2014』のアンケートにも回答しています。
Twitter:@nnnnnnnnnnn
Twitter:@n11books

単行本情報

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