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『スーペリア・スパイダーマン:ワースト・エネミー』 ダン・スロット、JM・デマティーズ、ジェン・ヴァン・メーター(作) ライアン・ステグマン、ジュゼッペ・カムンコリ、リチャード・エルソン、ウンベルト・ラモス、ステファニー・ビュッセマ(画) 秋友克也(訳) 【日刊マンガガイド】

2016/12/08


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『スーペリア・スパイダーマン:ワースト・エネミー』


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『スーペリア・スパイダーマン:ワースト・エネミー』
ダン・スロット、JM・デマティーズ、ジェン・ヴァン・メーター(作)
ライアン・ステグマン、ジュゼッペ・カムンコリ、
リチャード・エルソン、ウンベルト・ラモス、ステファニー・ビュッセマ(画)
秋友克也(訳) ヴィレッジブックス ¥3,000+税
(2016年9月28日発売)


当時、日本ではあまり話題にならなかったが、アンドリュー・ガーフィールド主演の映画『アメイジング・スパイダーマン』が公開された2012年は、スパイダーマン生誕50周年のアニバーサリー・イヤーだった。
つまり、映画『アメイジング・スパイダーマン』は生誕50周年記念作品であったのだ。

そして、翌年2013年には、原作コミックスの「アメイジング・スパイダーマン」誌が通算700号目に到達。2012年から2013年にかけては、2つのアニバーサリーによって、アメリカ国内では『アメイジング・スパイダーマン』という作品が大いに盛りあがる時期であった。

しかし、このアニバーサリーに、『アメイジング・スパイダーマン』の主人公であるピーター・パーカーは、かつてない最悪の事件に巻きこまれることになる。
その事件となるのが、本誌冒頭に掲載されている「アメイジング・スパイダーマン」#698から#700で描かれた、「ダイイング・ウィッシュ」編。

スパイダーマンの宿敵として活動し続けながらも、ドクター・オクトパスことオットー・オクタビアスは、長年続けてきた戦いのダメージの蓄積によって、その肉体は死の直前にあった。
ヴィラン専用の監獄に囚われていたオットーが、自身の死と引き替えにしたピーター・パーカー=スパイダーマンに仕掛けた最後の作戦。
それは、自分の精神とピーターの精神を入れかえ、自分がピーターの肉体を得て生きながらえるというものだった。
そして、その巧妙な作戦によって、オットーはピーターの健康な肉体を手に入れ、ピーターは死に体であるオットーの肉体に閉じこめられてしまう。

ストーリーは、もちろんピーターが自分の肉体を取り戻すべく、ヴィランたちを操った行動を展開することになるのだが、「衝撃的」といわれるのはその驚きの結末に向けた内容にあった。
ピーターは、奮戦もむなしくオットーから自身の肉体を取り戻すことができずに、オットーの肉体とともに死亡することになってしまう。
しかし、最後の戦いのなかで、オットーはピーターのヒーローとしての高潔な心を共有することで、ピーターの意思を継いで新しいスパイダーマン=スーペリア・スパイダーマン(より優れたスパイダーマン)として活動を開始することを決心。
まさかの主人公の死と、オットーが新たなスパイダーマンとなるという衝撃の展開が待っていたのだ。そして、その結果を受け、「アメイジング・スパイダーマン」誌は記念の#700で休刊となり、新たに「スーペリア・スパイダーマン」誌が刊行されることになった。

そして、本作はここからがある意味本番となっている。
スパイダーマン=ピーター・パーカーとして生きることを決めたオットーだが、もともとの性格である自尊心が強く、高慢であるという部分は変わらず、さらに彼自身が優秀な科学者であるという部分も継承されており、ピーターとは異なる彼なりの新しい「スパイダーマン」活動を展開。
それは、かつてピーターが苦しんでいた、ヒーローと一般生活を両立させつつ、さらに世間的にもスパイダーマンがヒーローとして認められ支持されることにつながっていく。
しかし、その一方でオットーは深層心理からかつてのヴィラン的な要素が完全に消えておらず、時に暴走といえるような行動さえとってしまう。
そして、そんなオットーを止めるのが、死んだと思われながらも精神体として存在していたピーターだった。

ひとつの肉体に、オットーの精神を中心としながらも、そこにピーターの精神も共存するという状況が生まれているのが、『スーペリア・スパイダーマン』という作品の最大の特徴となって描かれていくことになる。それは、ある意味スパイダーマンのこれまでの活躍を総体的に見直すような構成となっており、スパイダーマンというヒーローのあり方をあらためて考えさせるような要素を読み解くことにもつながるのだ。
スパイダーマン史上最大の危機から生まれた新しいスパイダーマンは、当初こそファンから賛否両論を巻き起こす衝撃的な展開を披露しつつも、50年という長い月日を経てもなおルーティーンに陥らない新しいスパイダーマンの姿を見せるという試みがなされていることがわかる。

ダブルアニバーサリーイヤーの悲劇からスタートする、華麗なる転身。
これこそ、長期連載で構築されるアメコミだからこそのウルトラC的なストーリー展開であり、本作はそれをきっちりと楽しむことができる1冊となっているといえるだろう。



<文・石井誠>
1971年生まれ。アニメ誌、ホビー誌、アメコミ関連本で活動するフリーライター。アメコミファン歴20年。
洋泉社『アメコミ映画完全ガイド』シリーズ、ユリイカ『マーベル特集』などで執筆。翻訳アメコミを出版するヴィレッジブックスのアメリカンコミックス情報サイトにて、翻訳アメコミやアメコミ映画のレビューコラムを2年以上にわたって執筆中。

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