日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『高橋葉介傑作集 海から来たドール』
『高橋葉介傑作集 海から来たドール』
高橋葉介 ぶんか社 ¥1,300+税
(2017年1月10日発売)
『夢幻紳士』シリーズや『学校怪談』で知られる高橋葉介。
快活から妖艶まで、独特の世界観を持つ孤高のストーリーテラーが、エキゾチックに描き出した作品集が『海から来たドール』だ。
表題作は、恐竜の暮らす南の島から来た少女ドールと、たまたま出会った学生・トオルを主人公に、現代のノアの方舟伝説を描く。いやあ、まさかダゴンが出てくるとは……。
収録作の「砲台」は、人類が衰退した未来らしき時代に浜辺に取り残された大きな砲台が舞台。
数年に一度だけ攻撃をしに現れる潜水艦と戦う少女と、彼女に囚われた少年の話。
ディストピアでの子どもたちの理由なき戦争……と書くと悲劇的だが、葉介ワールドでは不思議な陽気さが支配する。明るく、不気味な傑作。
そして注目すべきは「妖獣の女王」。
第二次大戦後前に起きた、満州で炭鉱労働者が次々と殺されるという怪奇事件。
その「犯人」は不気味な妖獣たちであり、その女王だった。戦後になり、その女王が復活する。
クトゥルフ神話を土台にした設定もいいが、何より「女王」のなまめかしさ!影のように黒い乱れ髪と、うすら白く豊満なからだとの見事なコントラストは高橋葉介の真骨頂だろう。
人外のものだからこその魅力がたまらない。
表題作のドールと同じく異国の女性ではあるが、陰陽の対極にある。
1980年代の様々な媒体に発表された作品をコンパイルした1冊で、収録作品は2008年宙出版刊行の『高橋葉介ベストセレクション ~海から来たドール~』と同じ。
今回のぶんか社版にはインタビューが収録されていない。
また1985年白泉社ジェッツコミックス『海から来たドール-高橋葉介傑作集-』とは表題作のみ重複。朝日ソノラマから1987年に『高橋葉介作品集 5 海から来たドール』(表題作I,II、海妖が重複)、1999年に『ヨウスケの奇妙な世界12 海から来たドール』(表題作I,IIのみ重複)が刊行されているので要注意。
<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!2014』のアンケートにも回答しています。
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