話題の“あの”マンガの魅力を、作中カットとともにたっぷり紹介するロングレビュー。ときには漫画家ご本人からのコメントも!
今回紹介するのは『花のズボラ飯』
『花のズボラ飯』第3巻
久住昌之(作) 水沢悦子(画) 秋田書店 ¥900+税
(2015年11月16日発売)
単行本第1巻が発売されるやいなや、大きな反響を巻き起こし、2012年度「このマンガがすごい!」では、みごとオンナ編1位を獲得。
TVドラマ化もされ、日本全国にズボラ飯ブームを巻き起こした人気コミックの、じつに3年8カ月ぶりとなる待望の新刊が出た。
ストーリーは「夫が単身赴任中の主婦・駒沢花が、ひとりの家でズボラな料理を作って食べる」という、いたってシンプルなもの。
花が生来のズボラなうえに、たいていは空腹で切羽詰まっているため、メニューはおのずと「今あるものですぐにできるもの」が中心。凝ったものや珍しいものはいっさい登場せず、本巻でも表紙のトーストコロッケサンドを筆頭に、お茶漬け海苔パスタ、カレーうどん鍋、鯖の水煮缶丼、きざわさアボカ丼…など、男子学生の自炊さながら「早・安・旨」の三拍子そろった、魅惑のズボラ飯がずらり。
それにしても、この作品に漂う、不思議な心地よさはいったい何なのだろう?
夫が不在で子供もいない花は、週に何度か本屋でバイトをする以外は仕事もせず、家事もせず、家で本を読んだり、ひたすらダラダラと気ままに過ごしている。
マンションのお隣さんで、花にあれこれおすそ分けをしてくれる高円寺カップルや親友のミズキ以外は、日常的な人付き合いもなく、わずらわしい人間関係もない。
そんなふわふわしたひとりの世界で、彼女は好きなときに好きなものを自分のためだけに作り、食べ、惰眠をむさぼる。これはつまり、一種のユートピアマンガなのだ。
「時間や社会にとらわれず、幸福に空腹を満たすとき、つかのま、彼は自分勝手になり自由になる。
誰にも邪魔されず、気を使わずものを食べるという孤高の行為――この行為こそが現代人に平等に与えられた、最高の“癒し”と言えるのである。」
これは、本作と同じ、久住昌之原作の『孤独のグルメ』のドラマ版の冒頭で流れる言葉であり、著者のテーマのようなものだが、『孤独のグルメ』では井之頭五郎のキャラも含めて「孤高」の部分が全面に押し出されているのに対して、『花のズボラ飯』ではズバリ「癒し」が全面に押し出されている。
それは画を担当している水沢悦子の持ち味でもあるのだろう。のんびりゆったりした時間が流れてゆく、どこか浮世離れした『花のズボラ飯』ワールドの心地よさは、くしくも第2巻が本作と同時リリースとなる彼女自身のオリジナル作品『ヤコとポコ』にも共通するものだ。
花が料理を考えたり、作ったりする過程での脳内妄想(実況中継)やボヤキ(オヤジギャグ&ダジャレ)もキュートでほほえましく、あいかわらずの食いしんぼうっぷりも気持ちよく、思わずほれぼれしてしまう。 童顔ぽっちゃりの怠惰な主婦(旦那が単身赴任中!)が空腹にかられ、紅潮した顔で、野菜の皮をむくのももどかしく料理し、貪るように食べながら「うんまぁぁぁぁあ」と恍惚の声を上げる――ってな展開には、あきらかに「食=性」のメタファーも込められているが、そんな官能文学的な目くばせも含めて、本能のままに生きる花をながめているだけで楽しく、ホッコリ癒される。
飯テロどころか、ワシは眺めてるだけでいいんじゃ~の域に達してしまう。
食マンガのマイルストーンにして、彼岸の味わいすら感じさせる一冊だ。
『花のズボラ飯』著者の水沢悦子先生から、コメントをいただきました!
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69
【大好評公開中!!】原作・久住昌之さん特別インタビューを観よう!
『花のズボラ飯』第3巻の発売を記念して、『花のズボラ飯』原作者の久住昌之先生に、本作のみどころを直撃インタビュー。ゆるーいテーマソングにも注目せよっ!!
そんな『花のズボラ飯』も載っているラーメンアンソロジーマンガ、