日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『高橋葉介傑作集 もののけ草紙』
『高橋葉介傑作集 もののけ草紙』第1巻
高橋葉介 ぶんか社 \1,300+税
(2015年11月5日発売)
主人公は、通称「手の目」と呼ばれる流浪の女芸人。
手のひらに大きな目の形の刺青を入れているのが特徴で、その手をかざすと予知や千里眼といった特殊能力を働かせることができる。
異能を活かしてお座敷で芸を見せて食いつなぎ、旅を続けているのだが、彼女を呼び止めるのはお客だけではない。
幽霊、妖怪、人外の者たち。さらにそれらに憑りつかれて苦しむ人間などに係わりあい、「手の目」はしばしばお金にならない働きをするハメになる……。
血生臭いエロ・グロ・怪奇をねっとり艶っぽく、それでいてさらりと流れるおかしみもこめて活写する異才の漫画家・高橋葉介の『もののけ草紙』がめでたく新装版で再刊行されている。
初出は「ホラーM」(現在は休刊してデジタル移行)に連載され、2008~2011年にかけて全4巻が出た作品だ。
さらに、「手の目」というキャラクター自体のルーツはもっとさかのぼる。
著者の代表的タイトル『夢幻紳士』シリーズの『夢幻紳士 逢魔編』、『~迷宮編』に登場したものが原型だ。
実際、『もののけ草紙』第1巻でも、顔と名前は伏せつつも夢幻紳士こと夢幻魔実也がイメージ的に姿をあらわすくだりがある。
霊能力者が行く先々で怪異と出くわしてはひょうひょうと応対し、その力であしらっていく本作の筋はヒロイン版『夢幻紳士』とも言える。
ただ、「手の目」の場合、他人に必要とされない人生を送ってきた孤独や寂しさを強調したエピソードがある(「幻の航海」)という点で夢幻魔実也とは異なる趣をもつ。
その点でいえば、ひとに呼ばれて働く旅芸人、つまり他人に声をかけられ必要とされて成り立つ仕事をなりわいとする彼女の設定は絶妙だ。
『夢幻紳士』ファンでこちらは未読というかたは、ぜひ手に取ってみて、夢幻魔実也と「手の目」の共通点と違いを味わってみるとおもしろいだろう。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7