このマンガがすごい!WEB

一覧へ戻る

『うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち』 田中圭一 【日刊マンガガイド】

2017/02/06


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち』


utsunuke_s

『うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち』
田中圭一 KADOKAWA ¥1,000+税
(2017年1月19日発売)


食×漫画家の家族を扱った『田中圭一のペンと箸 ~漫画家の好物~』と間をおかずに発売された、田中圭一による、同じくインタビュー中心のルポマンガだ。
ただし、こちらの内容は精神疾患「うつ」の話になる。
著者自身が兼業しているサラリーマン生活のなかでこの病を患い、長く苦しんだのだという。
といっても、語り口は理路整然としており、児童向け学習マンガのようにわかりやすい構成で描いている。うつの気持ちがわからないキャラ・カネコの気の抜けたリアクションもよい温度差を生み、ショッキングな表現はあれども、暗いほうへ気持ちが持っていかれることのない絶妙な筆致でつづられているのだ。
闘病記の語り手も、教師、OL、編集者など身近な職業の人々から、脚本家の一色伸幸、学者の内田樹、ミュージシャンの大槻ケンヂやAV監督の代々木忠といった著名人と、多岐にわたる。
とくに、大槻ケンヂが90年代、テレビなどの露出がさかんだったころがうつのピークだった、というのが驚きだ。個人的には『笑う出産』シリーズで出産エッセイのトップランナーだった、まついなつきの重い症状にも衝撃を受けた。
ここでも息子さんたちが救いになったことに涙し、ご近所さんのベストな対応に尊敬の念を抱く。

うつに苦しんでいる最中は、トンネルをさまようように真っ暗だという。
しかし、抜けた時に鮮やかな色彩が目に飛びこんでくる。
「抜けたら完治」ではなく、その後も「うつスイッチ」がまた入ることもあるそうだが、出口はちゃんとある。発症も、トンネルを抜けたのも、きっかけは人それぞれであり、これが効く! という特効薬はないのだが、うつとのつきあい方はなんとなく見えてくる。
身近な人がうつに苦しんでいる時、なにができるか、どのように考えればいいか、などなどヒントも含まれている。

うつになりそう、という人も含めて、ぜひ気軽に読んでほしい。「心が軽くなる」効果を保証する。
『Gのサムライ』『田中圭一最低漫画全集 神罰1.1』など下ネタやパロディの数々、恐れ知らずのギャグで知られる田中圭一だが、その土台にあるのは、気づかいに満ちたサービス精神ではないか、とも感じられる。

著者のファンはもちろん、悩める現代人すべての本棚に、このマンガを!

 

<文・和智永 妙>
「このマンガがすごい!」本誌やほかWeb記事などを手がけるライター、たまに編集ですが、しばらくは地方創生にかかわる家族に従い、伊豆修善寺での男児育てに時間を割いております。

単行本情報

  • 『うつヌケ うつトンネルを抜… Amazonで購入
  • 『田中圭一のペンと箸-漫画家… Amazonで購入
  • 『田中圭一最低漫画全集 神罰1… Amazonで購入

関連するオススメ記事!

アクセスランキング

3月の「このマンガがすごい!」WEBランキング