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『バットマン:エターナル』 上巻 スコット・スナイダー/ジェイムズ・タイノンIV他(作) ジェイソン・ファボック/ダスティン・グエンほか(画) 吉川悠(訳) 【日刊マンガガイド】

2017/02/24


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『バットマン:エターナル』


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『バットマン:エターナル』 上巻
スコット・スナイダー/ジェイムズ・タイノンIVほか(作)
ジェイソン・ファボック/ダスティン・グエン他(画) 吉川悠(訳)
小学館集英社プロダクション ¥5,500+税 (2017年1月18日発売)


アメコミヒーローの始祖であるスーパーマンが誕生したのは、1938年。
そして、スーパーマンと並び立つ存在であるバットマンは、その翌年の1939年から登場している。そして本作は、2014年にバットマン生誕75周年を記念した作品として刊行されたものであり、近年でもっとも新しいバットマンのアニバーサリー一大イベントとして作品である。

『バットマン』という作品は、ブルース・ウェイン=バットマンが主人公という立ち位置でいることは当然のことであるが、その舞台となる都市であるゴッサムシティも含めて”両方が主人公”という見方があるのをご存じだろうか?
バットマンは、ゴッサムシティが存在するからこそのヒーローであり、『バットマン』というタイトルは、ゴッサムシティの物語を描いているということは、ある程度アメコミにくわしい方ならすでに理解しているだろう。
そして、「バットマン生誕75周年作品」である『エターナル』も、やはり主人公であるバットマンとゴッサムシティそのものが未曾有の危機におちいる物語となっている。

75周年というアニバーサリーにバットマンとゴッサムシティを襲う大きな危機は、2つの火種から始まることになる。それは、バットマンとともにゴッサムシティを守り抜いてきた警察官のジム・ゴードン市警本部長の逮捕と、かつてゴッサムシティの裏社会を牛耳っていた人物であるカーマイン・“ローマン”・ファルコーネの帰還。

この2人の人物がストーリーの中心にすえられていることも、アニバーサリーと大きく関わっている。バットマンの理解者であり、頼れる協力者であり、そしてゴッサムシティを守るという思いをともにする“相棒”でもあるジム・ゴードン。
そのゴードンが逮捕されるということは、ゴッサムシティとバットマンにとって、大きな均衡が崩れることを意味している。

そして、ゴードン逮捕のきっかけに大きく関係しているのが、カーマイン・ファルコーネ。
彼は、バットマンが登場する以前のゴッサムシティを支配し、イタリア系ギャング組織である「ローマン・エンパイア」を率いていた人物である。
ファルコーネこそが、バットマンとゴードンが本格的に行動を始める前に、ゴッサムシティを犯罪都市と化する原因をつくっていた男であり、彼がいたからこそ警察官として強い正義感と信念を持つゴードンが行動し、そしてファルコーネが生み出した都市の犯罪によって肉親を失いバットマンとなったブルースも存在する。
つまり、この3人の関係は、ゴッサムシティが大きく変わっていく“原典”の三角関係ともいえるのだ。

ファルコーネの復帰は、ゴッサムの裏社会で大きな力を持っていたペンギンの率いる組織とのギャング抗争へと発展。一方、ゴッサム市警は街を守るための精神的な支柱でもあったゴードンを失い、ファルコーネの息のかかった新たな本部長が就任することにより、ゴッサムシティ自体がかつての犯罪都市へと戻ろうとするかのごとく動き始める。

ゴッサムシティの均衡をとり戻すべく、バットマンはバットファミリーたちとともに奔走するが、ゴードン逮捕から始まる一連の大きな渦は、バットマン=ブルース・ウェインをおとしれるための大きな陰謀のきっかけにすぎなかった……。

原典的な関係性の崩壊からスタートする物語は、これまであまりスポットの当たらなかったヴィランたちをも巻きこみつつ、ゴッサムの歴史やバットマンの存在を掘り下げる方向で展開。
バットマンを中心に大きく広がった、バットファミリーたちとの関係性なども描いて行く流れは、上下巻で1000ページに至るボリュームとなっている。

もちろん、バットマンといえば、ヒーローであり“名探偵”であることも忘れておらず、大きな陰謀の渦にはたしてだれが、どんな目的を持って準備し、それを実行したのかを解き明かす“謎解き”の展開も同時に進行していく。

作品としては、アニバーサリー=ファンに向けてのお祭りという意味が大きいため、ストーリー的にはアメコミ初心者向けとはいいがたい内容だが、『バットマン』という作品が持つ、犯罪もの、探偵ものという地に足のついたクライムアクション的な要素から精神世界や霊体的な世界観にまでも及ぶ世界観の広さ、そしてバットファミリーの広がりという、奥深さを1タイトルで満喫することができる、ある意味“深遠”なアニバーサリーストーリーだといえるだろう。



<文・石井誠>
1971年生まれ。アニメ誌、ホビー誌、アメコミ関連本で活動するフリーライター。アメコミファン歴20年。
洋泉社『アメコミ映画完全ガイド』シリーズ、ユリイカ『マーベル特集』などで執筆。翻訳アメコミを出版するヴィレッジブックスのアメリカンコミックス情報サイトにて、翻訳アメコミやアメコミ映画のレビューコラムを2年以上にわたって執筆中。

単行本情報

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