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『ONE PIECE』 第84巻 尾田栄一郎 【日刊マンガガイド】

2017/03/06


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『ONE PIECE』


ONEPIECE_s84

『ONE PIECE』 第84巻
尾田栄一郎 集英社 ¥400+税
(2017年2月3日発売)


「週刊少年ジャンプ」の看板タイトル、『ONE PIECE』最新の第84巻が発売された。

王下七武海の一角だったドフラミンゴを倒すという山場を乗り越えた麦わら一味。
巨大ゾウのうえに住む獣人たちや、いわくつきのサムライたちと同盟をむすぶ幕間ののち、今度は四皇「ビッグマム」との因縁が発生する緊迫の展開が前巻から続いている。

この流れのなかで、久しぶりに(いやほんとうに、年単位で久しぶりに!)物語のメインに浮上したのが、麦わら一味のコック・サンジだ。

かつて北の海を強大な武力で制圧したという「ジェルマ王国」の王族「ヴィンスモーク家」。
そして一族が闇の世界で築いた戦争請負組織「ジェルマ66」。

サンジはそのジェルマの王の末息子、つまり身分的には王子様だという。
父親が求める冷酷な超人になれなかったサンジが幼少期に受けたひどい仕打ちが描かれ、さらに今またビッグマムのファミリーとの政略結婚にコマとして利用されかけている状況を補足説明するのが本巻の主な内容となっている。

かの海上レストランに関係する過去は、料理人としてのサンジの起源だった。
今回スポットがあたるのは、もう一段深く、サンジという人格そのものの核心である。

サンジが親兄と起こした確執の土台である生まれついての優しさは、そのまま、彼が麦わら一味から離脱をはかろうとしている心情の根拠となる。
ルフィたちが大切で、失いたくないからこそ自分を偽って決別しなければならないという、せつない矛盾。
はたしてルフィは、強大すぎる組織や超大物海賊を向こうにまわし、さらに本人の意志すらくつがしてサンジをとり戻すことができるのか?
初期メンバーが軸になるだけあって「ルフィにとってのサンジとはどういう存在か」もドラマの鍵となり、行きずりで知りあったキャラクターを人助けするのとは異なる味わいがある。

海賊王になる、最強の剣豪になる、全世界の海図を描く、すべての食材が揃う海を見つける……。
目標に向かって未来へ未来へと進むなかで強敵と戦うルフィたちの旅路は、同時に、それぞれのルーツや秘密に対して過去へ過去へとさかのぼって自分の内面と戦う精神的な旅路でもある。

始末のつかない過去と直面させられたサンジが、嘘と真実に揺れながら向かう心のゆくえを、じっくりと見とどけよう。



<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7

単行本情報

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