ペンネームの由来は、憧れの大先生の作品から
――尾崎先生はデビュー時から一貫して恋愛マンガを描いていますが、子どもの頃からどんなマンガを読んできたのでしょうか。
尾崎 初めてマンガを読んだのが小2で、姉が持ってた水沢めぐみ先生の『空色のメロディ』にドはまりしました。それで鉛筆でマンガを描いてみたんですけど、一番最初に描いたのが、三つ編みの女の子が田舎に越してくるという、まんま『空色のメロディ』な始まりでした。2Pで終了、未完です(笑)。小中時代はもう本当に「りぼん」大好きりぼんっ子でした。中学時代に突然自分のなかで「昔の少女漫画を読んでみよう」ブームがきていろいろ読むんですけど、『ベルサイユのばら』を読んでおもしろすぎてびっくりし、萩岩睦美先生の『銀曜日のおとぎばなし』を読んではボロ泣きしてました。太刀掛秀子先生の『ひとつの花もきみに』は短編なんですが、すごく心に刺さりました。
――うわぁ、感受性豊かな時代に、すごくいいマンガ体験を重ねてますね。
尾崎 高校時代に大島弓子先生の作品を読んで、なんでしょう、心を動かされたという意味では「感動」なんでしょうけど、「マンガでこんなことが描けるんだ……」と、とにかくすごいと思ったのを覚えています。あと、山岸凉子先生の『日出処の天子』を読んだ時はショックすぎて3日くらいごはんをまともに食べれなかったです。
――順調に少女マンガ金脈を掘り進めていったんですね。
尾崎 大学時代は、自分自身のことで精一杯であんまり読んだマンガのことを覚えていないんですけど、聖千秋先生の『サークルゲーム』はすごい好きでした。ともすれば暗くわかりにくくなってしまいそうな話なんですが、主人公のいづみちゃんが本当におもしろくてイキイキしてて、キャラクターって話を動かすうえで本当に大事なんだな、と思った記憶があります。モノローグ、セリフの描き方とかもすごく好きで勉強になりました。
――マンガを描き始めたのはいつごろですか?
尾崎 紙と鉛筆で描き始めたのは小2で、つけペンを使い始めたのは中1です。姉が持ってた篠原千絵先生のマンガの影響で、いっちょ前にサスペンスものとか描いてました。身のほど知らずもいいところです。恋愛ものを描きだしたのは投稿を始めてからです。
――初投稿は?
尾崎 中2です。その頃から漠然と漫画家になりたいというのはあったと思うんですけど、強く意識し始めたのは、高校生の時に漫画スクーリングに参加してからです。福岡で開催された九州スクーリングに参加したんですけど、その時7人くらい投稿者さんが集まってて、お話ししたり絵を描いてもらったりしてすごい刺激を受けました。ちなみにその時の参加者のなかには、「ちゃお」の篠塚ひろむ先生と「りぼん」の前川涼先生がいらっしゃいました。
――漫画家になるという夢が、より現実的なものになったんでしょうね。
尾崎 初投稿から14本くらい投稿して高3で1回デビューしたんですけど、まあ全然ダメで。そこからまた投稿し直して大学3年の時に「ベツコミ」に拾ってもらいました。ベツコミデビュー作は王子様が出てくる、とってもキラキラの少女マンガです!
――「ダメ恋」作中には、いい男の代名詞として福山雅治、速水もこみちが出てきますが、尾崎先生がマンガのなかで惚れこんだ男性キャラはいますか?
尾崎 え……だれだろう……? あ、真壁君(『ときめきトゥナイト』)はやっぱりかっこいいですね! あと、ひかわきょうこ先生の描く男の人も好きです。イザーク(『彼方から』)は本当にかっこいい。
――影響を受けた漫画家さんは?
尾崎 それはもうなんといっても大島弓子先生です。ペンネームも大島先生の作品のキャラ名から拝借しちゃってるくらい好きです。
――あっ、衣良は『バナナブレッドのプディング』(大島弓子)の三浦衣良からきてたんですね!
尾崎 たまに作品を読み返しては泣いたり考えこんだりボ~ッとなったりしています。すみません、好きすぎて何がどうとうまく説明できない……。直接的には、アシスタントに行かせてもらっていた関係で小花美穂先生の影響もすごく受けています。10年以上前のことなのにいまだに影トーンのふちを削るクセが抜けない……小花先生のところでそうしていたので(笑)。とても勉強になったし、小花先生の作品も人柄も尊敬していて大好きです。
恋愛の甘いだけじゃない部分も描けるのが“大人の少女マンガ”の楽しさ
――尾崎先生が「自分の方向性はこれだ」という手ごたえを得たのはどの作品ですか?
尾崎 う〜ん、どうなんでしょう……? 正しいかどうかは別として、「あ、こういうの描いてもいいんだ」と思ったのは、コミックス『初期傑作集 ダメ恋前夜』に収録されている読み切り『おやすみ真夏の月』でしょうか。悶々としそうな話だし、わかりやすくハッピーな話でもなかったんですが、描きたいことをちゃんとていねいに描こう、と思って描いたらアンケート結果もよかったらしく、「あ、いいのか、へえ~~~」となりました。
――「ダメ恋」で新しく尾崎先生のファンになった読者の方に、「ダメ恋」以前の単行本をオススメするなら? お気に入り作品を教えてください。
尾崎 う~~~~~~~ん、『外面が良いにも程がある。』ですかね……。『失恋専門』も、「プチコミック」で描き始めて大人の恋愛を描く楽しさがわかり始めた頃の作品がつまってて個人的には気に入っています。
『外面が良いにも程がある。』
尾崎衣良 小学館 ¥429+税
(2014年12月10日発売)
――大人のための少女マンガを描く楽しさを感じるのはどんなところでしょうか。
尾崎 恋愛マンガを描くうえで一番意識しているのは「共感」だと思います。「プチコミック」で描くようになって、恋愛の甘いだけじゃないところも描けるのは難しいですけど楽しいです。
――作画のうえではどんなところにこだわっていますか?
尾崎 私は絵が下手でデッサンもうまく取れなくて、勢いで読み手を納得させるほどの絵力というかセンスもないので、ならばとりあえずは正しく描こうと、わからないところは似た服を着て写真を撮って、それを見ながらせっせと描いています。重要なのは正しさよりもバランスだとは思うのですが、難しいですね。
――女性のファッションのデザインや柄、アクセサリーひとつとっても、キャラクターをものがたっていますよね。部屋や出てくるお店などのライフスタイルのデティールからもそれを感じます。漫画家としての目標などはありますか?
尾崎 あんまり先のことは考えず無心で、とりあえずひとつひとつおもしろいものをしっかり描いていけたらなあと思っています。
――では最後に、読者の方へのメッセージをお願いします。
尾崎 これからもがんばって描いていこうと思いますので、少しでも笑ったり楽しんで読んでもらえたら本当にうれしいです!
――ありがとうございました。
取材・構成:粟生こずえ
『深夜のダメ恋図鑑』第3巻
尾崎衣良 小学館 ¥429+税
(2017年9月8日発売)
尾崎衣良先生の『深夜のダメ恋図鑑』も紹介している
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