ダメな部分もいい部分も愛してもらえるようなキャラクターを描けるようになりたい
――現在発売中の「別冊マーガレット」別冊ふろく「moi!」に発表された最新作『昏倒少女』についておうかがいしたいと思います。主人公は“すぐ倒れてしまう女の子”というこれまた一風変わった設定ですが、これはどんな着想から?
安藤 気を失って倒れる時の感覚と、恋に落ちる時の感覚には通ずるものがあるな、という発想から出発して考えました。
――“虚弱な女の子”というと、おとなしそうなイメージを持ちがちですが、そんなステレオタイプを破るようなキャラクターが新鮮に感じました。キャラクターは、どんな段階を経て作っていくのですか?
安藤 そのときどきによってステップは違うのですが、どの場面でも決め手は私自身が「そのキャラクターを追っていきたいと思えるか」という部分で描いていると思います。
――本作もいろいろな「ひっかけ」があり、話が進むにつれて「あ、そうだったのか」と事実がわかっていく過程がおもしろかったです。こうした構図が得意とお見受けしますが、それは何かマンガや小説、映画などの影響があったのでしょうか。
安藤 私自身が読み手としておもしろいと思えるような作品作りを心がけています。ですので、特別に「ひっかけ」を作ろうという意識ではいません。でも、個人の好みとしては、そういった作品により満足感を得ているのかもしれませんね。影響は今まで見てきたあらゆる作品から受けていますので、ピンポイントに「どの作品から」とは、正直なところよくわかりません。
――栄養不足らしい主人公の小日向さんを、クラスメートの橘くんが心配して、いきなりに家に連れていってご飯を振る舞うという展開が意外で楽しいです! 2人を描くうえで意識したポイントは?
安藤 2人の “距離感”でしょうか。そろそろとようすを見ながら歩み寄るようで、ある時、突発的にぐいっと歩み寄る。そういった自然な距離感をいつもより意識したように思います。
――作中で、先生ご自身が特に気に入っている場面、エピソードやセリフなどを教えてください。
安藤 う~ん。晩ご飯がぱーっと並んでいる場面が好きです。
――柔道部の小日向くんは、きっとよく家に友だちを連れてくるんでしょうね。急のお客をすっと受けいれるお母さんのキャラクターもとても魅力的です。
――それにしてもこのラスト、2人はこの先どうなるのかな、と気になります。先生ご自身は、結末のその後などを考えたりしますか?
安藤 通常の場合は、短編のその後について考える機会はありません。ですが、この作品の場合は雑誌に掲載されてすぐの頃に、とある尊敬する方が「続きを読みたい」と仰っていただいたと人づてに聞きまして……少しイメージを巡らせたりしました。
――もし続編が読めたらうれしいかぎりです!! ところで、安藤先生はストーリー作りをどのような順番で行っているのでしょう。
安藤 キャラ作りのプロセスと同様に、そのときどきで違うのですが……。たとえば全体的なイメージを考えるところからであったり、ワンエピソードやアイデアを膨らませるであったり、キャラクターのイメージから生まれることもあります。要は自分のなかの無数の「点」を、どこを出発として「線」にするかということなのでしょうね。
――マンガを描くうえで好きな作業、苦しい作業を教えてください。
安藤 一番好きな作業は枠線を引くことです。苦手なのはスクリーントーンに関する作業の一連です。
――作品を描くうえで信条としていることはありますか?
安藤 もし自分が漫画家になっていなかったとして……その自分が読者としておもしろいと思えるような作品を作れるようになりたいと思っています。実際の読者を無視しているということではないのですが、自分以外の誰かの感覚はどうしたってわからないので、そこはもう腹を決めて自分の感覚に頼るしかないなと思っています。
――漫画家として、何か目標や夢はありますか?
安藤 理想はもちろん、執筆先の雑誌に貢献できるような作家になることなのですが、目下の目標としましてはもうちょっと、生活に困らないくらいにはマンガを描けるようになりたいということです!
――今後はどんな作品を描いていきたいですか?
安藤 ダメな部分もいい部分も愛してもらえるようなキャラクターを描けるようになりたいです。それから、いつか時代物やエッセイに挑戦したいような……と、ぼんやり考えています。それはもう、ぼんやりと。
――ここまでうかがってきて、安藤先生はとても広い興味と、独特な視点をお持ちだと感じます。違うジャンルの作品もぜひ読んでみたいです! では最後に、読者の方へのメッセージをお願いします。
安藤 一生懸命描きます! よろしくお願いします!
取材・構成:粟生こずえ