パズルのピースをはめていくように物語をつくる
――『きみを死なせないための物語』では、宇宙考証協力も入っていますね。
吟 これはけっこう連載ギリギリに決まったんです。佐原宏典教授は宇宙工学の研究者の方で、本来、私のような者が関わっていただけるようなお立場ではないんですが、ご縁があって協力していただけることになって。しかも、すごく真剣に取り組んでくださっているんです。作品の軸に関わるトリックのアイデアを出したところ、その場で関数電卓アプリを叩きながらものすごい勢いで計算を始められたんです。「これ以上は専門的なソフトがないとできないので持ち帰ります」とおっしゃって……。後日「計算した結果、そのトリックは成り立ちます」と、分厚いパワーポイントの書類の束が届いたんですよ。
――それ、読まれたんですか?
吟 一所懸命読みました。でも、毎週のように計算を更新したものが届くんですよ(笑)。ちょっとした設定についてだけでも、全力で「成り立つかどうか」考証してくださっています。
――絵に描いたような研究者ですね!
吟 もちろん読者さんは、それが実際にあり得るかどうかなんてことは考えず、物語を楽しんでくださったら嬉しいのですが。ここは私のこだわりでもあります。
※ちなみに、佐原宏典教授が本作『きみを死なせないための物語』の宇宙考証について解説するサイトを連載にあわせて設立! 作品とあわせて見ていくと、より深く本作の魅力を堪能できるゾ!
★HP「きみを死なせないための物語 宇宙考証の解説」
http://www.comp.sd.tmu.ac.jp/ssl/kimi_storia/index.html
――宇宙、生物学など様々な分野への興味が作品に反映されていますね。そういえば『アンの世界地図』のなかでも歴史パートがじっくり描かれましたが、歴史好きでもある?
吟 とても描きたかったパートです。
担当編集 このまま古民家暮らしの日常的な物語をずっと続けていくのかどうかと話しあって。
吟 以前、第一次大戦に詳しくなろうと勉強した時期があったんです。漫画家として何か武器を身につけようと思ったときに、第二次大戦はおくわしい方がたくさんいらっしゃるけれど、第一次大戦は日本ではあまり書籍が多くはなくて。それで徳島に第一次大戦の痕跡があるということは知っていました。
――正直、歴史パートが始まった時にはいちエピソードを挟んだのかなと思ったら、本格的に展開していくので引きこまれつつびっくりして。それが最終的に「お宝鑑定」のネタとぴったりハマる……。「ここにつながるの!?」という超ウルトラCの着地で。どうやってこの筋をつくったんだろうと。
吟 もともとロジックパズルが好きで……。ストーリーもパズルをはめていくみたいに作っていくのが好きなんです。佐原先生も「アン地図」を気に入ってくださって「どうやってああいうストーリーを作るんですか?」と質問されたことがあったんですが、多次元世界から始まって『弟切草』という結論になりました。
――多次元世界の考え方……?
吟 物語をつくる時って、ひとつひとつの要素に様々なパターンの過去と現在と未来が見えているわけです。そのうちのどれを選択してどうつなげるか、構成を決めながら過去も未来も選択してはめこんでいく……。これは、大学で学んだ記号論理学が生きているのかもしれません。
担当編集 吟先生に要望を伝えると、「それはできない」ということはないんです。私の意見を受け入れて、自分の色に魔改造して出してくる(笑)。可変域が非常に広いんですね。
吟 どんな情感を読者さんに起こさせるかが重要なことで、そのためのピースはどれを選択してもかまわないと考えているんです。もっといえば、この不景気の時代、どの巻数で切られるかもわからない。どこで切られても「名作だった」と言わせる矜持を持ちたいと思っています。「第3巻で終われ」といわれたら3巻で仕上げる、というふうに対応していかないと。
――かっこいい……! 『きみを死なせないための物語』は、詰めこまれているピースの一つひとつが独創的で、味わうほどにおもしろくなりそうなので長く描いてほしいです!
担当編集 第3巻では「パートナー制度」や「リストイン(安楽死)」などアラタたちをとりまく社会のルールが見えてきました。ジジをはじめとする社会的評価の低い者たちの置かれた境遇と、登場人物たちがどう向きあっていくのかがこれから描かれていくと思います。
吟 まだいつになるかはわかりませんが、結末には驚く仕掛けをご用意しておりますので、ぜひ最後まで読んでいただきたいです。よろしくお願いいたします。
――本日はありがとうございました!
取材・構成:粟生こずえ
<インタビュー第1弾も要チェック!>
【インタビュー】吟鳥子『きみを死なせないための物語』これはSNSが生んだ本格SF少女マンガだ!