人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、板垣巴留先生!
『このマンガがすごい!2018』オトコ編第2位を皮切りに、「マンガ大賞2018」大賞、「第21回文化庁メディア芸術祭マンガ部門」新人賞、「第22回手塚治虫文化賞」新生賞、そして「第42回講談社漫画賞」少年部門受賞と、近年まれに見る勢いで数々のマンガ賞を総ナメにしている『BEASTARS』。
物語の舞台は、肉食動物と草食動物が共存する世界。主人公のハイイロオオカミ・レゴシと、彼をとりまく多種多様な動物たちが、自分の本能を見つめ、相手を受け入れようとする姿を描いた、動物版青春群像劇である。
なんとこれが本格連載のデビュー作という超期待の新人漫画家・板垣巴留先生の仕事場に「このマンガがすごい!」編集部が直撃! 本作の世界観を彩るキャラクターたち、そして緻密な設定の誕生秘話を語っていただいた!
小学生の頃から温めていた作品の世界観
――『このマンガがすごい!2018』オトコ編第2位獲得、おめでとうございます。 年が明けてからはさらに、「マンガ大賞2018」大賞、「第21回文化庁メディア芸術祭マンガ部門」新人賞、「第22回手塚治虫文化賞」新生賞、「第42回講談社漫画賞」……等々、受賞ラッシュとなっていますが。
板垣巴留先生(以下、板垣) 『このマンガがすごい!』は初めての受賞で、とても喜びが大きかったんです。『このマンガがすごい!』のことは前から知っていましたし、編集さんたちも喜んでくれたし……。それに、私自身、賞をいただけるような万人受けするマンガだと思っていなかったので、受け入れてもらって意外、と思いつつもうれしいです。
――初連載作で、そうそうたる賞を受賞して、あらためてわいてくる実感はありますか?
板垣 数が重なってくると、自分のなかでおごりがでてくるような……そういう自分にふと気づいてちゃんとマンガを描こうと。しっかり描かないと、せっかく賞をもらったこともむなしいものになってしまうから、気を引き締めないとと思っています。
――おごり……どんな時にそう思われますか?
板垣 日中、仕事をしている時は冷静なんですけど、夜、ひとりになった時に「ふう…私もやってるなぁ」とか思ったり。
(一同爆笑)
――おごりというにはかわいすぎますね(笑)。今は、お友だちからもお祝いラッシュですよね。
板垣 ラインでお祝いの言葉をもらったりします。家族が一番喜んでくれていますね。離れて暮らしていますが、家族も東京に住んでいるので、「帰ってきなさい」「食事しよう!」といってくれます。
――では、まず『BEASTARS』という作品がどのように生まれたかをお聞きしたいと思います。
板垣 この作品の世界自体は、マンガを描くためにつくったのではなく、ずっと昔から自分のなかにあって……それが、しだいに今のかたちになっていったんです。小さいころから動物が好きで、動物の絵ばかり描いていたことが出発点です。お話みたいなものを考えるのが好きだったので、ネコなり、クマの絵を描いては設定を考えるということをやっていて。
――キャラクターづくりの始まりですね。それは何歳くらいから?
板垣 設定をつくり始めたのは、たぶん小学校中学年くらいだと思います。
――やはり直立歩行スタイルで、洋服も着ていたんですか?
板垣 絶対直立なんですよね、私が動物を描くと。
――小学生の女の子が描く動物キャラというと、サンリオみたいなファンシー系になりそうだなと思うのですが、そうはならなかった?
板垣 今よりは子どもっぽいデザインで描いてたとは思うんですけど、友だちにはウケがよくなかったので、かわいくなかったのかも。動物キャラ好きというより、動物図鑑が好きなので……。絵を描くことがどんどん好きになるにつれて、より生々しいタッチになっていったと思います。
――どんなキャラクターがいたんですか?
板垣 量産しすぎてあまり覚えてないんですが……動物以外に、宇宙人や恐竜もいたりで、めちゃくちゃでしたね(笑)。種類の違う動物がごちゃまぜで、人間みたいに生活してるという基本設定は『BEASTARS』と同じですが。大きい動物も小さい動物も、みんながいっしょにいるのが好きなんですね。
――動物園に行ったり、自然に生きる動物の番組が好きだったためですか?
板垣 それもありますが、動物をキャラクター化した作品は昔からたくさんありますし。ディズニーの影響もあるかもしれません。
――昔のディズニーでは、ねずみのミッキーマウスが犬を飼ってるなど、不思議な設定がありましたが、そういうのって気になりますか?
板垣 私はそれはそれでいいと思うんですが……小学校3年生くらいからなんですよ、人がそういうことを指摘し始めるのって(笑)。賢そうに矛盾点を突く人間に、幼心にモヤッとした気持ちを感じていて。そういうのに対抗する気持ちで、自分が納得できる世界を考えていたのかなと思います。
――『BEASTARS』では、草食動物も肉食動物も同じ学校に通っているけど、寮は別で……理にかなってるなと感心するのですが、そういう現実的な設定も当時から考えていたんですか?
板垣 システムまでは考えていなかったですけど。ただ、肉食動物は草食動物のことを食べたいと思ってるけど、秩序を守るために我慢しているというところは考えていました。
――すでにそこを考えていたとはすごいです!
板垣 ストーリーより世界観のほうが先にできていったと思います。法律とかちゃんとつくったほうがいいよな、とか。肉食動物ばっかり我慢してたらうまくいかないよな、と大人っぽい視点が生まれてきて。「いろんな動物たちが暮らしてたらこうなるんじゃない?」と想像してきた積み重ねで、だんだん世界観が構築されていったんです。