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【インタビュー】おざわゆき『傘寿まり子』 年の功で人生を切り開く! 私たちが80歳ヒロインを応援してしまうワケ。

2018/07/13


人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。

今回お話をうかがったのは、おざわゆき先生!

『このマンガがすごい!2018』オンナ編第2位、そして第44回講談社漫画賞一般部門を受賞した『傘寿まり子』の主人公は、なんとひ孫もいる80歳のまり子!
一見かわいらしいおばあちゃんの、のほほんストーリーを想像するが、驚くことなかれ。
まり子は第1話から、3世帯住宅からの家出をやってのけ、第2話でさっそくマンガ喫茶デビューをはたす……など、その品のある見た目とは裏腹に、かなり根性と行動力のあるおばあちゃんなのである。

前回のインタビューでは、まり子の誕生秘話や、物語にしばしば登場する高齢者が直面していることについてなど、たっぷり語っていただいた。
今回はさらに今作の魅力であるリアルな80歳ヒロインの描き方や、本日発売の最新刊の見どころに迫る!

おざわゆき

愛知県出身。

高校生の時に集英社の少女マンガ誌「ぶ~け」でデビュー。代表作に夫・渡邊博光との共著『築地まんぶく回遊記』(ぶんか社)、『築地あるき』(飛鳥新社)や、実父の体験を描いた『凍りの掌-シベリア抑留記-』(小池書院)など。母の戦争体験を元に描いた『あとかたの街』(講談社)にて、第44回日本漫画家協会賞を受賞。現在は「BE・LOVE」にて『傘寿まり子』を連載中。

Twitter:@yukiozawa

『あとかたの街』インタビュー前編はコチラ 後編はコチラ

切られる作家と、切る編集者、両方の気持ちを理解したい

――ところで、まり子を小説家にしたのはなぜだったのでしょうか。

おざわ 職業を持たせようと思って……80歳で仕事を続けているとして小説家はありかなと。

――モデルにした小説家はいますか?

おざわ モデルはないですね。大ベテランの現役小説家というと思い浮かぶのは佐藤愛子さんや田辺聖子さんですが。当初、まり子さんは性格的にもうちょっと強いイメージだったのですが、そうはなりませんでしたね。

――瀬戸内寂聴さん、故・宇野千代さんみたいな……? でも、まり子さんもふだんは柔らかいけれど、十分強いと思いますよ! 高齢に伴う問題が次々にたたみかける展開のなか「連載打ち切り」は本作のなかでもかなり大きな軸として考えられていたのでしょうか。

文芸誌でエッセイの連載を続けているまり子のなかで、新たに芽生えた小説執筆への意欲。しかし、編集部は、話題性のある若い作家を求めていて……!?

おざわ 最初はそういうつもりだったわけではないのですが、私が常々思ってきた創作者としての不安をまり子を通して描く、というかたちになっています。つながっていると思った橋がいつのまにか切れていたというのが、今の創作者の現実なんじゃないかと。もちろん編集者にしても創作に対して愛情はあって、売れいきの数字だけで事務的に作家を切るのは辛いと思うんです。だけど、現実的に本が売れなくなっている今、雑誌が生き残る道を考えたときに、数字がとれない作家を切るのはやむをえない。作家と編集者、両方の気持ちを考えながら描いています。

書籍が売れない今、守るべきは歴史ある雑誌か、それとも長くそれらを支えた作家たちか……。編集者側の葛藤もみることができる。

――そこで、発表の場を失ったまり子さんが、ウェブマガジンという新天地を見つけるわけですね。

おざわ 小説家であるまり子さんが、編集という立場に初めて立つことになります。初めての編集、そして未知のウェブという土壌ですから、困難は2倍です。

――第5巻でまり子さんが初めてくらはらさんと会い、WEBマガジンの協力を依頼するシーンで、くらはらさんにボロカスにいわれるのが、本作のいい意味で厳しいところですね!

うまくいきすぎる物語に心のなかでつっこみを入れている読者の気持ちを、作中でくらはら氏に代弁させている。

おざわ ここは、若い人が「それはないんじゃないの」と、本音を吐きだす大事な場面です。そんなにヌルくて甘い考えで、現代というものを知ろうともせずにうまくいくわけないんですよ、と意見しなくちゃいけない。だって、そう思いますよね!?

――はい。ここでスイスイいったらファンタジーですよね。

おざわ くらはらさんのキツい指摘を乗り越えることで進んでいく、という構図があれば納得して読んでいただけるのではないかと。

年の功を活かして前に進む、これまでにないヒロインを描く

――くらはらさんの初登場は第5巻ですが、じつは第2巻ですでにちらりと紹介されていましたね。

文芸誌でまり子の持つエッセイ連載の、新たな候補者としてその名は挙がっていた! 80代と20代が同じフィールドで戦う構図には、ビックリする。でも創作の現場では、あたりまえなのだ。

おざわ この時は男性のつもりだったんですよ。実際に登場させる段になって、編集さんと打ちあわせしている時に「年齢も性別も不詳ですよね」という話になって、若い女の子にするのもアリかと。

――あえて男性の名前を名乗っているマルチクリエイター少女、いそうな気がします。

おざわ 若くて天才肌の美少女という、正反対の存在とまり子さんがやりあう図はおもしろくなるかなと思いました。

――まり子さん、負けてないですし。

おざわ くらはらさんの意見を受け止めつつ、違う手で攻めていって。笑顔で相手を肯定しつつ反撃するのが、まり子ならではのやり方なんです。

これぞ年の功! 同世代だったら間違いなくピリリとしそうな言葉に対し、まり子は巧みにするりとかわしてこわはらの心に近づいてくる。

――この年齢だからできる戦術ですね。

おざわ 開口一番ディスられて、もっと若い人だったらこうは返さないでしょう。高齢の人だったらどう受け止めるのか……でも、一般的なおばあちゃん像を描くつもりはないので。さらに、まり子をだれも見たことのないおばあちゃんキャラとして考えながら描いています。私は常に主役を自分に降ろして、「憑依」して考えるのが基本です。

――ずっと年齢が上のキャラクターになりきるのは難しくないですか?

おざわ 連載を始める前、まり子さんの基本設定を考えるのに苦心していた時期がありました。その頃、『ヘルプマン』を描かれているくさか里樹先生のトークイベントに行きまして、その場で「高齢者の方をずっと描かれていますが、高齢者の方の気持ちがわからなくて苦労はされないんですか?」と質問したんです。そうしたら、くさか先生は「私は高齢者って自分と別のものだとは思っていない。そんなに違いはないと思っているからそれほど苦労はないんですよ」と。目からウロコが落ちました。

――なるほど……。

おざわ 考えてみると私だって、30年前と思考はそんなに変わってないかも。じゃあ30年後もそんなに変わってないはずだと。今の私を30年、未来にシフトするだけだと思ったおかげで、すごく楽に描けているんです。くさか先生には今度ちゃんとお礼をしなくてはと思っています。

――身体や状況の変化や、起こりそうな問題に対して……感じる気持ちは、自分のままでいいと。

おざわ そうですね。私が高齢者問題の当事者になった時にどうするか、自分を当てはめて描いています。

――本作にまり子世代の方も共感したということは「80代になっても人はそんなに変わらない」が証明された形に?

おざわ 共感してもらえてうれしいです。高齢者は決して別世界の人ではないんです。

単行本情報

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(C)おざわゆき/講談社

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