まり子に「憑依」して、事件に向きあっていくなかで発見をえる
――次々にたたみかけるように事件が起こって……かなりハラハラさせられるストーリー展開ですよね。
おざわ 「同棲編」「ウェブマガジン編」などのエピソードのなかに山をつくることは意識しています。単行本の最後に山場がくるようにして。
――単行本の最後は、各巻かなり少年マンガっぽいヒキですよね。
おざわ それはけっこういわれます。私自身、大仰なヒキが大好きなので。『進撃の巨人』の1巻のヒキとか、大好きなんです。次を読まずにいられないあの感じが。そのためには無茶な状況をつくって、そこにおばあちゃんを当てはめたらどうなるかを常に考えていますね。ちえぞうさんやガリオくんなど友だちが増えることで、未知のものに触れる状況をつくっています。
――旅の途中で仲間が増えていくみたいな感覚もあります。
おざわ まり子とちえぞうさんがゲームセンターで出会ったことで、浮き彫りになってくる「高齢の親を引き取る問題」もすごく描きたかったことです。私自身、親と離れて住んでるので、ここは気持ちを投影していますね。自分も解決しなくちゃいけない問題を創作に取り入れて……まり子なりの解決が描けたと思っていますが。
――描きながら、発見があるということでしょうか。
おざわ そうですね。ガリオくんのおかげで、ウェブマガジンをやることになりましたが、これも私的にはかなり視界が広げられたところがあって。
――「見る」と「やる」では違うわけで。「やる」気になって描かれたということですね。ウェブマガジン創刊からの流れで登場した伝説の作家、小桜蝶子さんがゴミ屋敷の住人だったというのも意外な展開でしたが。
おざわ ゴミ屋敷についてはかなり前から興味を持っていて、テーマとして挑戦したいと思っていたんです。ゴミ屋敷に関するテレビ番組をやっているとつい見てしまうのはなぜかというと、「ゴミを貯めてしまう変わった人」を見たいだけではなく、「どうしてこういう状態になってしまうのか」「それをどう解決できるのか」を見たいわけで。
――ゴミ屋敷はいまや珍しくなく、身近な問題といえそうです。何かのきっかけがあったら、自分もなりえるのではないかと……。
おざわ だれでもなりえると思います。自分が社会から必要とされていない存在になったと思ったときにすべてやる気がなくなって片づけられなくなるとか。ボーダーラインがわからなくなって自分ではゴミ屋敷だと思っていないなど、いろんなパターンがあるようですが。
――でも、他人がいきなりズカズカ入っていって片づけられるものではないから「社会問題」なんですよね。
おざわ かつて見たテレビ番組で、タレントさんがおばあちゃんのゴミ屋敷を何日も時間をかけて片づけていくドキュメンタリーがあって。おばあちゃんの歴史、思い出を、大事に扱って片づけていく姿に感動しました。もちろん、テレビなのできれいにまとめているところはあるにしろ、最終的におばあちゃんにも感謝され、よい関係を築いて去るのが印象的で……これがベースになっていますね。ゴミ屋敷専門の業者さんにも取材させてもらったのですが、やはり「壊れているから」「汚いから」「賞味期限が切れているから」と勝手に捨てたりはせず、一個一個ちゃんと確認しながら片づけているのだそうです。ゴミ屋敷ってやっぱり気持ちの問題なんだなと思います。
――ウェブマガジンも軌道に乗り始めて……今後まり子さんはどこに向かっていくのでしょう?
おざわ 結末はまだ考えてないんですけど、まり子がやりたいところまでやらせてあげたいなと思うんですけど。お年なので、自分の体の衰えに直面する時が来るであろうとは思っています。
――6巻のヒキもかなりの無茶ぶりですが、最新7巻のみどころをご紹介願います。
おざわ 蝶子さんというひとりのクリエイターにスポットライトが当たる巻です。 そして新しく「シャッター商店街編」が始まりますが、これも前から描きたかったネタです。よくニュースでも取り上げられていますし、私自身、グルメの取材をするなかで、商店街の苦境を目の当たりにすることがあって。
――そうでした、おざわ先生は『ホッピーがススム看板メニューめぐり』(『本当にあった笑える話』ぶんか社)、『突撃!あなたの町の中華屋さん』(『めしざんまい』ぶんか社)と、グルメルポ漫画も連載中ですよね。
『ホッピー好きの夫婦があちこち飲み歩いてみた』
おざわゆき ぶんか社 ¥1,000+税
(2018年7月10日発売)
おざわ ページ数は短いですが毎回取材に行くので結構たいへんなんですよ。
長年やってきたけれど閉めざるをえないお店の事情、それにどのように気持ちの整理をつけるのか。それに対してまり子さんがどう働きかけるのか、ご注目ください。
――ありがとうございました!
『傘寿まり子』第7巻は本日7月13日発売です!!
『傘寿まり子』 第7巻
おざわゆき 講談社 ¥580+税
(2018年7月13日発売)
取材・構成:粟生こずえ