『このマンガがすごい!2019』栄えあるオトコ編第1位は……『天国大魔境』!
12月11日に発売された、『このマンガがすごい!2019』にて、オトコ編第1位に輝いた『天国大魔境』。
「アフタヌーン四季賞」受賞をきっかけにデビューし、『それでも町は廻っている』『木曜日のフルット』などで話題を読んだ石黒先生が、18年ぶりに「月刊アフタヌーン」に帰還!
連載開始当初から注目をうけていた今作は、魔境と化した日本で天国を探す"キルコ"と"マル"、そして緑に囲まれた謎の施設に住む"トキオ"をはじめとした少年少女たちが交互に描かれる。
2人の探す天国とは? トキオたちの暮らす施設の外の世界とは? そして、さらなる謎として登場するのは、同じ顔を持つ少年少女、トマト、不気味な怪物――。
謎が多く散りばめられているからこそ、今後の展開が気になって仕方がない! 本誌『このマンガがすごい!2019』では、レビューだけでなく、全8ページにわたる石黒先生のインタビューが掲載中!
そして今回、誌面の関係上、紹介しきれなかったお話を盛りこんだディレクターズカット版として、「このマンガがすごい!WEB」限定で石黒正数先生のインタビューを前後編の2回にわけてお届けします!
全マンガファン注目のインタビュー後編、刮目してご覧あれ!!
前編はコチラから。
インタビュー本文は『このマンガがすごい!2019』にて大公開!
石黒先生による描き下ろしイラストも要チェックです!
『このマンガがすごい! 2019』
『このマンガがすごい!』編集部(編) 宝島社 ¥680+税
(2018年12月11日発売)
石黒先生が声を大にしていっておきたいこと……!?
──連載開始後の反響はいかがでしたか?
担当編集 期待値が高い反応をする読者の方は結構いますね。「待ってました!」という声も大きかったですし、既存の読者のアンケートもよかったです。「アフタヌーン」との親和性がすごく高いと思っています。
──石黒作品が「月刊アフタヌーン」本誌に掲載されるのは18年ぶりだったとか。
担当編集 にもかかわらず、昔からずっと本誌に描いていたようななじみ方をしていますよね。石黒先生はご自分にしか描けないような作品を描いているので、どこでも浮くようでいて、どこでもなじんでいるのが不思議です。20年以上「アフタヌーン」を読んでくれているお客さんにも、スッと受け入れられているように思います。
石黒 18年ぶりの「アフタヌーン」でなじんでいるように見えるのは、俺が「アフタヌーン」っぽい作風に憧れていたというのが大きいと思います。憧れの雑誌だから俺も昔「アフタヌーン」に持ちこみしたわけです。そういう「アフタヌーン」のカラーは、連載作家たちが守ってきたものだと思う。その“らしさ”というのは、編集部が思っている以上に、作家たちは重大に受け止めて描いていると思いますよ。
──「月刊アフタヌーン」の新人賞である四季賞は、ページ数不問ですよね?
担当編集 そうです。ページ上限はもうけていません。ボールペンは不可ですけどね。
石黒 俺、ボールペンで描いた(笑)。
──あら。
石黒 いや、知らなかったんだって。四季賞に応募するために描いたわけじゃなくて、就職活動をするのが嫌で持ちこみをしたの。そこで担当がついて「じゃあいっしょに四季賞をめざす作品をつくりましょうか」ってなると思うじゃないですか、普通。そうしたら「じゃあこれ四季賞に回しましょうか」ってなっちゃったの。
──それが『ヒーロー』(2000年・秋受賞作。『Present for me ~石黒正数 短編作品集~』収録。巻末のあとがき「石黒WORK’S クロニクル」に当時の状況は詳しい)なんですね。
『Present for me ~石黒正数 短編作品集~』
石黒正数 少年画報社 ¥542+税
(2007年8月3日発売)
石黒 そう。だから応募要項を見て描いたわけじゃないの。
──今回は連載開始後、すぐに反響を呼んで、今回『このマンガがすごい!2019』オトコ編で1位になりました。先生ご自身は、その理由はどこにあるとお考えですか?
石黒 毎年、『それ町』に入れてくれる方はいたんですよ。だけど分散していて、同じ年に重なることがなかったんです。だから順位的にも上に来ることはなかったんだけど、それが今回の『天国大魔境』は新連載ということで、今が「入れ時」と思ってもらえたんじゃないでしょうかね? ただ……。
──ただ……?
石黒 ……思い出すと身悶えするくらいイヤなんですけど……!
──はい。
石黒 去年の1位(『約束のネバーランド』)にすげえ似てるんですよ! (物語の)入りのところでテストしてるし! あれ知ってたら、全然違う入り方にしたよ! 服装とかも全然違う感じにする。あれすげえショック!
──時代も文化も違うので、いわれるまで気づきませんでしたよ。それをいったら『わたしを離さないで』も、冒頭は外界から遮断された学校が舞台じゃないですか。
石黒 いや、カズオ・イシグロはけっこう前の作品だから、似ていたとしてもしょうがないんですけど、『約束のネバーランド』は去年ですからね!? けっしてマネしたわけじゃないから! ここだけは声を大にしていっておきたい!
──だれもそんなこと思ってないですよ(笑)。で、来年は『天国大魔境』に設定が少しだけ似た作品が1位になったりして……。
石黒 それなら、ものすごく使い勝手の悪い光線銃を出してほしいですね(笑)。
『天国大魔境』でのお気に入りのシーン
──石黒先生には一番お気に入りのシーンを、『このマンガがすごい!2019』本誌であげていただきました(『このマンガがすごい!2019』本誌にマンガ実物画稿を掲載)。ほかにお気に入りのところはどこでしょうか?
石黒 トイレのシーン(第1巻39ページ)は好きかも。寝袋に潜りこむところ(47ページ)も好き。キルコがエロイところは、だいだいお気に入りです。フライパンでガジャガジャーって料理するところ(44ページ)も。
──キルコ、めちゃくちゃかわいいですよね。
石黒 そういっていただけるとうれしいです。はじめのうちは、描いているうちに若干顔が変わってしまっていたんですよね。もともと描きたい顔があるんですけど、それに似せる方法がわからなかったんです。第6話のトビラ絵(161ページ。『このマンガがすごい!2019』本誌参照)でコツをつかんだ感じです。キルコはこの顔だと思って読んでほしい。これ以降は、だいたい安定してこの顔になるんですよ。
──今回は文明崩壊後の世界が舞台ということで、『それ町』とは作中のリアリティレベルが異なると思います。ギャグ顔の“崩し”の度合いにも変化があったりしますか?
石黒 そこはあまり考えてない。基本的には、起きた出来事を俺が見ているような感覚で描いているから、演出をつけるというか、表情で芝居をどうこうするというのはないですね。
──なるほど。歩鳥(『それ町』の主人公)のギャグ顔が思いっきり崩れるのは、歩鳥だからなんですね。
石黒 歩鳥だからですね。
──石黒先生はとても楽しそうにマンガを描く方だな、という印象があるんですけど。
石黒 じつは苦しみながら描いてます。1巻は苦しみしかなかったから、全部しんどかったですよ。評価がまだ出ていない状態で、『それ町』とはずいぶん毛色が違うし、どうせ「『それ町』のほうがよかった」っていうんだろ、って思いながら描いていたから……。
──だれもそんなこと思ってないですよ(笑)。
石黒 今回はアクションシーンを描いていて楽しいですね。『それ町』では、あまりアクションらしいアクションはなくて、せいぜいホウキを持って追いまわすくらい。『木曜日のフルット』でまじめにアクションを描くと「痛い!」って感じになっちゃうから、煙でボカスカって処理しちゃってるし。人間のいろいろな動きを描けるのは楽しいです。
──この怪物(“ヒルコ”および“人食い”)を倒す時に、手の形に具現化して入っていくような表現がおもしろいですね。
石黒 柔らかいものを握りつぶす……って表現は、庵野秀明監督の影響が強いように感じます。俺はそんなに熱心な『エヴァ』(『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズ)ファンじゃないけど。柔らかいものを握りつぶして殺す。
──イメージしやすいです。
石黒 ここはわかりやすく描きたかったんです。俺ね、「つねにわかりやすく」って、読者の目をめちゃくちゃ意識してるから! 俺のマンガは、何が起きているかわかりやすいですよ。もし読んでいてわかりにくいところがあったら、それは俺が意図してわかりにくくしているところだから。
──“マンガ表現を使った叙述トリック”みたいなことをやりますよね。
石黒 そういう癖はありますね。
──そういえば先生の作品って、あまり見開きを使いませんよね?
石黒 ポリシーです。『天国大魔境』だと2~3ページでやったように、上半分を使うようなことはやりますけど、見開き全部を使うことはほとんどないです。俺の作風だったら、そんなに大きい絵が必要ないんじゃないかな、と。ただ「ここぞ」という時には使いますよ。『それ町』だと、歩鳥とたっつんが看板を洗っているシーン(第16巻)ですね。
──細かいディテールに目を移すと、背景の家に家族の安否を報せる貼り紙が貼ってある(66ページ)じゃないですか。こういうところに、すごくリアリティを感じるんですよね。
石黒 こういうのを思いついた時は楽しいですよ。だから背景も全部自分で描きたいんですけどね。