日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『木曜日のフルット』
『木曜日のフルット』第5巻
石黒正数 秋田書店 ¥419+税
(2015年12月8日発売)
「ニンゲンみたいなネコとネコみたいなニンゲンのダメかわいいお話」の『木曜日のフルット』もついに5巻。
『木曜日のフルット』は「週刊少年チャンピオン」の巻末が定位置で、「ビッグコミックスピリッツ」でいえば『じみへん』みたいなポジション(『じみへん』、終わっちゃいましたね)。
アクの強い作品がそろった「週刊少年チャンピオン」読後のこってりした後味をわずか2ページですっきりと整え、「来週も『チャンピオン』楽しみだ!」という気分にさせてくれる作品。いわばたらふく食った寿司三昧の後にいただく「あがり」みたいな存在でしょうか。そんでまたこの「あがり」がめっぽううんまい。
主人公は負けん気は強いがケンカはいまいちのダメかわいいネコ・フルット。そしてそのフルットの飼い主であり、オンボロアパート住まいのダメかわいいフリーター・鯨井早菜(くじらい・さな)。
フルットは半ノラネコで、外ではノラネコ集団「アウトローズ」の一員として行動するが、定期的にアパートでエサをもらう生活を送っている。飼われているつもりもないフルットと、飼っているつもりもない鯨井先輩。放ったらかしのようでいて、それでも時々お互いを気づかう両者の関係がたまらなく自由でくつろげる。
フルットはネコやほかの動物(カラスやノミ、カッパなど)と話すことができるが、人間の言葉や行動はよくわからない。
人間サイドとネコサイドのお話がそれぞれ独立していて、線引きがはっきりされている点も心地よい。
わずか2ページのショートギャグながら、著者の出世作『それでも町は廻っている』と同じくミステリやSF、時に社会風刺や不条理劇など、多彩な語り口で楽しませてくれる。石黒マンガならではのクオリティの高さも保証付きだ。
<文・秋山哲茂>
フリーの編集・ライター。怪獣とマンガとSF好き。主な著書に『ウルトラ博物館』、『ドラえもん深読みガイド』(小学館)、『藤子・F・不二雄キャラクターズ Fグッズ大行進!』(徳間書店)など。4コマ雑誌を読みながら風呂につかるのが喜びのチャンピオン紳士(見習い)。