「キャラクターとコミュニケーションを取る」という発想
――バルツァーさんは、すごくまじめな人物ですよね。4巻では駐屯中にマニュアルを作ったり、マメなところもあります。
中島 真面目ですね。俗物で小者っぽいところもあるんですけど(笑)、基本的にはかなりの真面目キャラです。
――主人公を学生としていた初期案とは、かなりキャラクター性が違います?
中島 学生の時は、もう少しヤンチャな感じで考えていました。それから教官にすると決めた当初も今とは全然違って、もっとヤル気のないキャラでした。「現実ってこんなもんだよなぁ」みたいな諦めがちで、サボリたがりでした。
担当 打ち合わせの段階では「昼行灯キャラ」だったんですよね。でも実際に中島先生から上がってきた案(現在のバルツァーのキャラクター)は、わりとサラリーマンっぽい側面があります。それはアリだな、と。普通の男性読者が読んだ時に、サラリーマンものとして読めるかも、と感じました。
中島 その「サラリーマン感覚」っていうのをすごく意識しました。
担当 『島耕作』シリーズじゃないですけど、主人公が上司に誉められたり出世したりするのは、読んでいてうれしいじゃないですか(笑)。そういうサラリーマンものみたいな感覚は、たしかにあっていいかもしれません。
中島 どの上司についていけば楽か、といった派閥争いも絡みますしね。軍隊ならではの特殊性を強調しすぎるよりは、読者の身近なところを意識しています。
――学校が舞台だと、学園ものの感覚もありますよね。
中島 そうですね、若い読者は学園もの感覚で見てもらえればいいな、と思います。生徒目線で「バルツァー先生!」って(笑)。バルツァーと同世代なら、サラリーマン的な出世物語で見てもらってもいい。上の世代からは「こんな部下いたらヤだなぁ」とか。視点をいくつか作るように意識してます。
――ちなみに主人公に、特定のモデルはいますか?
中島 具体的に「この人!」と言えるような、そのものズバリのモデルはいません。ただ、いろいろな人物のエピソードとか、ものの考え方や行動を複合して組み合わせています。そのモデル例としては、ジェミニ、モルトケ、メッケル、シュトイベン、クラウセヴィッツあたりでしょうか。
――先ほども例に挙がった軍人たちですね。
中島 主人公に関しては、自分とコミュニケーションを取りやすいキャラになってくれてよかったなぁ、と思ってます。
――自分とコミュニケーション、ですか?
中島 あ、そうですね、えーと、ネームを作っている時に話しかけてくれるような感じ……、とでも言いましょうか。セリフ回しを含めて、ああだこうだ言ってくれる感じですね。たとえば何か作戦を考えているとするじゃないですか、するとバルツァーの「パッとしねぇ作戦だな!」みたいな反応が見えてくるんです。内に秘めるんじゃなくて、なんでも言ってくれるキャラでよかったなぁ、って思います。逆に、コミュニケーションが取りづらいキャラだとたいへんです。リープクネヒトとか、もう会話にならない感じ(笑)。ほんと、苦手です。もう少しコミュニケーション取れるようにがんばります。
――キャラクターとコミュニケーションを取る、って発想はおもしろいですね。
中島 ちなみに、あのー、バルツァーの髪型のモデルはスーパーサイヤ人だ、って話はしましたっけ?
担当 いや、それは知らなかった(笑)。
中島 鳥山明先生が大好きなんです。ミリタリー趣味も、鳥山先生から影響を受けいるくらいに大好き。だから「自分のなかでいちばん格好いいマンガ・キャラクターは誰だろう」と考えた時に、「スーパーサイヤ人だ!」と思って。金髪で目の色は緑で……でも誰も気づいてくれない(笑)。
次回は、圧巻の戦闘シーンの生み出し方、驚きの作画法、そしてもっとも気になるあのヒロインが誕生した裏話についても直撃!
取材・構成:加山竜司
撮影:編集部