史実をモデルとしつつもフィクションにした理由
――『軍靴のバルツァー』は、「月刊コミック@バンチ」創刊号から連載がスタートしました。それまでの経緯をお聞かせください。
担当 もともと中島先生の、中国史系の学園ものの短編を読んだことがあって、気になっていたんです。あとから調べたら『三国志』ものも描いていることがわかりました。それで新雑誌創刊にあわせて、歴史ものがひとつほしいな、と思っていたので、声をかけさせていただきました。
――では最初は、『三国志』ものをお願いする予定だったんですか?
担当 そういうオーダーはありました。実際、最初は『三国志』っぽいもので話を進めていました。ただ、「基本的には好きなものでいいですよ」とお伝えしたところ……。
中島 お会いするたびに「今ドイツが熱いですよ」と(笑)。せっかくだから新しいジャンルに挑戦したい気持ちもありましたので、「この時代を描いたマンガは、まだないんですよ」って説得しました。
――日本人になじみのない世界ですが、そのあたりに抵抗はありませんでした?
担当 最初はイメージできないというか、フワンとしていました。以前、うちの雑誌でも描かれていた長谷川哲也先生[注12]が、少年画報社の「ヤングキングアワーズ」で『ナポレオン』[注13]という作品を連載してますが、そういう感じになるのかなぁ……と漠然と思っていたくらいです。でもまぁ「作家さんがいいと言うなら、いいんじゃないかなぁ」と思いまして。それに私も戦記ものが好きなので、抵抗は全然ありませんでしたよ。わかりにくくならないように、とだけは伝えていましたけど。
中島 打ち合わせを始めた頃、フリードリヒ2世[注14]はどうですか、という案もあったんです。けれど「実在の人物を描いて、人物伝みたいにするのは避けよう」と。
――そのあたりが、史実(プロイセン)をモデルにしつつも、フィクション(架空の国)にした理由でしょうか?
担当 マンガとして盛り上げるには、史実だとキツイんじゃないかな、と思いまして。
――歴史を知っている人には、先の展開が読めちゃいますからね。
中島 それはそれで、そのなかでどうおもしろくするか、という楽しみはあると思うんですよ。自分も『三国志』もので散々描いてきたし、読むのも大好きです。ただ、今までずっと「史実の枠組みのなかで創作する」という描きかたを続けてきたので、今回はシナリオの自由度を優先してやっていきたいと思いまして、それでオリジナル世界でのフィクションになりました。
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li>注12 長崎県生まれ。上京後、マンガ原作者・小池一夫の主宰する劇画村塾で学び、漫画家デビュー。原哲夫のアシスタントをしていたこともある。歴史もの、伝奇もの、SFものと作品のジャンルは幅広い。現在、「ヤングキングアワーズ」(少年画報社)にて『ナポレオン-覇道進撃-』を、「戦国武将列伝」(リイド社)にて『セキガハラ』を連載中。
- 注13 「ヤングキングアワーズ」(少年画報社)にて連載された長谷川哲也による歴史マンガ。ナポレオン・ボナパルトの生涯を描く。現在は『ナポレオン-覇道進撃-』のタイトルで連載中。
【きょうのマンガ】『ナポレオン -覇道進撃-』 - 注14 第3代プロイセン王。1712〜1786。軍事的才能に秀で、数々の啓蒙主義的な改革を断行し、プロイセンの軍国化を推進した。その功績から「大王」とも呼ばれる。哲学者・ヴォルテールとも親交があり、歴史教科書では啓蒙専制君主の代表例として挙げられる。超愛犬家。
【インタビュー】長谷川哲也