練習用のつもりで始めた 『子供はわかってあげない』のネーム
――初の長期連載作である『子供はわかってあげない』は全20話構成ですが、これは最初から決めていたんですか?
田島 いや、最初は1冊にまとまるように10話を想定してました。でも7話目を描いた時に「ムリだ」と思いました。
担当 まだ話の風呂敷が広がっている途中ですからね、第7話
田島 15話くらいでも収まらない感じでしたので、じゃあキリがいい20話にしよう、と思いました。
――担当さんは、田島先生が長編を描いていることはご存知でしたか?
担当 いえ、まったく知りませんでした。ひさしぶりに電話をしたら、田島先生が「今、長編描いてるんです」とおっしゃったのでビックリしたんですね。それまで短編しか描いてなかったから、ものすごく興味があって。でも僕ら編集者の感覚だと、作家さんが「長編を描いてる」と言った場合、いってて2話目くらいかな、と思うわけですよ。全体の構想がこんな感じで、第1話がこんな感じで……と。そのノリで田島先生に「今、何ページ目ですか?」って聞いたら……。
田島 今、287ページ目です、と(笑)。
担当 「なにを言いだしたんや!」って思いました(笑)。昔の手塚治虫さんの単行本描き下ろしみたいに、続きもので描いてるのかと思うじゃないですか。でも、よくよく考えたら「そんなはずはないよな」と。それで「今、何話目ですか?」と聞いたら「18話目です」とのことだったので、じゃあ各話が16〜19ページか、と。
――それだと常識的なページ数ですね(笑)
担当 全20話になるとの話だったので、それなら終わりも見えていることでしょうから、「全部終わってから読ませてください」と伝えました。
――これは失礼な聞きかたになるかもしれませんが、なんでいきなり20話分もいっきにネームを描こう、となってしまったんですか?
田島 それまで趣味でも長編は描いたことがなかったんです。だから受賞後に「連載用のネームを描いて」とか言われても、できなかったんですよ。だから「これは趣味だ」と言い聞かせて、練習用のつもりで描き始めたんです。
――それで気が楽になった部分もあるのかもしれませんね。
田島 そうですね、誰にも見せなくていいから。本屋さんに行ってもいっぱいマンガがあるから、「何を描いても誰かとかぶっちゃうんじゃないか」とその頃は考えてました。でも趣味で描くのであれば、誰に見せるわけでもないし、誰かとかぶってもいいや、と開き直れました。そういうふうに、自分の心を楽に、楽にしていって描いてました。
――じゃあ全20話まで描き終えたところで、誰かに見せようという気はなかったんですか?
田島 そうです。たまたま担当さんから電話がかかってきたので、話のついでに「今、長編描いてます」と言ってみただけです。
――どれくらいの期間でネームは完成したんですか?
田島 だいたい2カ月です。
――全20話分のネームをドカンと渡されて、どうでした?
担当 その時のネームがコレです。
――うわ、小さい(笑)
担当 以前は普通のサイズ(B4に2ページ)で描いていたので、かなり面食らいましたし、文字も小さいので読むのに時間がかかりましたね(笑)。でも読み進めていくうちに、どんどんのめり込んでいきました。喫茶店で渡されたのですが、その場で延々と4時間くらいかけて読みました。それで読み終わったあと、田島先生には「これはすごいと思います。おそらく連載になると思います」と伝えました。
――もうその時点で連載を確信してたんですね。
担当 そうですね。ただ、ちょっと心配はありました。小さいサイズで描いているので、セリフが多いように見えてしまうんですよ。ただ、マンガ原稿にしたら全体の面積が広くなるので、大丈夫だとは思っていたんですけど。実際に編集部に持ち帰ったところ、編集長も「これはすごい、このままいくべきだ」と言ってくれました。
――ではネーム段階から、ほぼ変えずにそのまま原稿に?
田島 ちょっとは変えてます。コマの配置とか絵の入れ方とか。でも、ほとんどネームの状態から変えてないです。