ゆうきまさみが語る「見る」ことの重要性
――『でぃす×こみ』でお兄ちゃん(弦太郎)が給湯室の取材のために編集部を訪れる回(第1集第5話)があるじゃないですか。それで編集部の机とか給湯室を見ているシーンで思ったんですけど、漫画家さんは普段いろいろなところを観察しているんだなぁ、と。
ゆうき ああ、これは自分に言い聞かせる意味でツイッターなんかで言ってるんですけど、「ものを見なさい」と。絵がうまくなるには、やたらと描きまくるのも大事なんですけど、ものをよく見ることも大事なんです。
――今はデジカメで枚数を気にせずに撮影できちゃうから、若い人ほど、あんまり観察しないのかもしれませんね。
ゆうき かもしれないですねー。ぼくが新谷かおる先生のところにお手伝いに行った時に、隣の席に女性のアシスタントさんがいたんです。その女性が背景を描くのに苦労していると、新谷先生がのぞきこんできて「屋根瓦っていうのはこういう構造になっているから、ここが重なっていて、こういうふうに見えるんだよ」って教えているのを見て、その時に「ああ、ものをよく見ないとダメだなー」と思ったんですよ。
――それは、ご自身で描くことを想定して、風景とかを見ているということなんですか?
ゆうき うーん、そういう感じでもないんですけどもねぇ。たとえば『パトレイバー』で野明と遊馬が居酒屋でクダを巻く話があるんですけど、居酒屋のなかの風景、それこそイスのかたちなんかは、わざわざわそのために調べたわけじゃなくて、覚えていることを思い出しながら描いたんです。そうしたら、ほかの人から「よく居酒屋のなかの風景をこんなに細かく描けるね」と言われた。だからね、たぶん無意識で見ていると思うんですよ。
――無意識なのに覚えている。こうして向かい合ってお話ししていると、いろいろと記憶されてそうで怖いですね(笑)
ゆうき ただねぇ、ぼくはファッション関係が苦手なんですよ。たぶん興味が全然ない。そういうことは覚えられない。だから今日これからウチに帰ったあと、みなさんがどういう服装だったのか、まるで思い出せないと思います。そこはなんとか克服したいと思っているんだけれど。
――映画を見た時に、SFのガジェットとかメカは覚えている?
ゆうき そうなんですよぉ(笑)。ついこのあいだ思い出したんですけども、ぼくが最初に描いたマンガって、小学生の時に『ガメラ対ギャオス』[注2]を封切りで見て帰ってきたあとに、それをコミカライズしたものなんですよ。
――映画の内容を、そのままマンガに?
ゆうき 紙を折って冊子っぽくして、それに鉛筆描きしたんですけどね。当時は「映画ソックリに描けた!」って満足してた記憶があります。
――どういう部分を描いたんですか?
ゆうき あの映画をマンガにするんだったら、あれは外せない、これは外せない、みたいな部分を描いていったんですよ。たとえばギャオスの光線で車がまっぷたつになるシーンとか。
――自分なりに編集していたわけですね。
ゆうき 最初に調査団のヘリコプターがまっぷたつにされて墜落していくシーンと、それからニューオータニの回転ラウンジ! あれも外せないなぁー。ギミックいっぱいですからね、あの映画。
――最近はSF映画が多いじゃないですか。ご覧になります?
ゆうき 見ますよ。『アベンジャーズ』シリーズ[注3]は大好きです。あとね、『マン・オブ・スティール』[注4]!
――スーパーマンのリブート作。
ゆうき 最初のクリプトン星でふよふよふよ~ってしたヤツが出てくるじゃない。あれを見て「マーカー[注5]だっ! お前マーカーだろ!」って思った(笑)
――海外の映画人には、けっこう日本のアニメを見ている人もいますしねぇ。
ゆうき そうみたいですねぇ。『マン・オブ・スティール』のクライマックスでビルをぶち破っていく格闘シーンがあるんですけども、「あれは『鉄腕バーディー DECODE:02』[注6]でのバーディーとナタルのバトルに影響を受けた」と、ザック・スナイダー監督が公言[注7]してましたからね。
――すばらしいですよね。ネタ元をしらばっくれる監督もいるのに。
ゆうき ねえ。だから「ザックがこんなこと言ってるよー」って教えてもらった時は、浮かれてリツイートしちゃいましたよ(笑)
- 注2 『ガメラ対ギャオス』 『大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス』のこと。1967年に公開された日本映画。監督は湯浅憲明。昭和ガメラシリーズの第3作品目にあたる。超音波怪獣ギャオスは、コウモリをモチーフにした怪獣。
- 注3 『アベンジャーズ』 マーベルスタジオズ製作の、アメコミ・スーパーヒーロー映画の一連のシリーズ。各タイトルの主役が一堂に会するオールスター作品が『アベンジャーズ』。これまで一連のシリーズとしては、『アイアンマン』『インクレディブル・ハルク』『アイアンマン2』『マイティ・ソー』『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』『アベンジャーズ』『アイアンマン3』『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』が公開されており、『アベンジャーズ』の続編『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』は日本では2015年7月に劇場公開が予定されている。
- 注4 『マン・オブ・スティール』 2013年公開のアメリカ映画。監督はザック・スナイダー。『スーパーマン』(1978年からの映画版)のリブート作で、カル・エル(のちのクラーク・ケント。スーパーマン)がクリプトン星から地球に緊急避難させられるシーンからはじまり、クラーク・ケントが地球人ではない自分をアクセプトしていく過程が描かれる。主演はヘンリー・カヴィル。続編『バットマン v スーパーマン:ドーン・オブ・ジャスティス』は2016年公開が予定されている。スーパーマン役には引き続きヘンリー・カヴィルが起用された。バットマン/ブルース・ウェイン役は、新生バットマン・シリーズ(『バットマン ビギンズ』『ダークナイト』『ダークナイト・ライジング』)のクリスチャン・ベールではなく、ベン・アフレック(『アルゴ』『ゴーン・ガール』など)が起用された。
- 注5 マーカー 『鉄腕バーディー』シリーズに登場する、ロボットの一種。通信や記録などを担当する。主人公バーディーの相棒となるマーカーは「テュート」と呼ばれている。
- 注6 『鉄腕バーディー DECODE:02』 『鉄腕バーディー』(リメイク版)を原作とするアニメ作品。2008年に第1期『鉄腕バーディー DECODE』が放映され、翌2009年には第2期である『鉄腕バーディー DECODE:02』が放映された。キャラクターや設定は原作と同様だが、アニメオリジナルのストーリー。
- 注7 ザック・スナイダーが公言
「バトルはドラゴンボールというより鉄腕バーディー」『マン・オブ・スティール』ザック・スナイダー監督インタビュー(アニメ!アニメ!)
「ザック・スナイダー監督が日本の漫画からインスパイアされたアクションシーン」(シネマトゥデイ)
©ゆうきまさみ/小学館