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いくえみ綾『あなたのことはそれほど』インタビュー  私ハマるとしつこいよ――ズルい女とわるい男のリアルでドロドロなW不倫劇

2015/06/01


「いい人」ほどじつはコワい!? 有島の妻・麗華と美都の夫・涼ちゃん

――麗華は、不幸な家庭環境と容姿へのコンプレックスゆえに、しっかり者の「いい子」に育って、現在はいわゆる良妻賢母、夫の有島を愛しているけれど媚びたところがない。4人のなかではいちばん地に足がついてる印象ですね。

いくえみ 麗華に関しては、ただ地味で堅実な人を描いてみたくて。そして有島とくっつけてみたかったんです。

里帰り出産前にやんわり有島にクギを刺す麗華。完全に夫を手のうえで転がしている妻の貫禄が漂う。

里帰り出産前にやんわり有島にクギを刺す麗華。完全に夫を手のうえで転がしている妻の貫禄が漂う。

――ただ、その冷静さがコワいところもあって。麗華は小さい頃から自分を抑えてきた人だけに、彼女の秘めた衝動性が今後のストーリーにどう関係を及ぼしてくるのか気になります。

いくえみ そうですね。私もまだよくわかりません。ただ読んでくださった方たちが、みんな「コワいコワい」と言うので、そんなに怖いかなあ? とちょっと疑問に思ってたんですが、この間、自分で描いてちょっと忘れてて読み返してみたら、麗華コワかったです……。

――ちなみに、有島が麗華に「浮気ってどっからが浮気だと思う?」と問うシーンがありますが、先生自身はどこからが浮気だと思われますか?

いくえみ たんなる性欲でするキスとかセックスよりも、心から愛しいと思ってつないだ手のほうが、浮気だと思います。

浮気の線引きって人によって違う。そして、有島がどこから浮気と思っているのか、気になるかも。

浮気の線引きって人によって違う。そして、有島がどこから浮気と思っているのか、気になるかも。

――美都の旦那さんの涼ちゃんは料理上手で優しくて、典型的な愛妻家ですが、それゆえストーカー的行為に走るようになり、すべてを知ってもなお「変わらず君を愛する」宣言をします。「いい人」だけど、ある意味、いちばんヤバイような……。

いくえみ これまたよくわからない人なので苦労してます。わからないです。コワいです。とりあえず、携帯チェックはしちゃいかんですよ。

結婚1周年記念の夜の衝撃展開! 浮気しているのを知ってるのに笑顔でこの発言……言われたほうはかなりコワい。真意はなに!?

結婚1周年記念の夜の衝撃展開! 浮気しているのを知ってるのに笑顔でこの発言……言われたほうはかなりコワい。真意はなに!?

――有島&麗華夫婦も、美都&涼ちゃん夫婦も、ザックリいえば「ズルい人×いい人」の組みあわせなのが、興味深いです。人は自分にないものを求めてしまうのでしょうか?

いくえみ さっきも言いましたが、この組みあわせだとおもしろそうと思ったのかな~私。……すみません。

複雑な感情をさりげなくリアルに描く いくえみワールド

――『あなたのことは~』がおもしろいのは、ネットのクチコミを見ると「登場人物のだれも好きになれない!」という意見も少なくなくて。じゃあ、つまんなくて読みたくないのかといえば、そうではまったくなく、むしろおもしろくて続きが気になってしょうがないと。登場人物もたいてい屈折してますが、読者もものすごく屈折したことになっています(笑)。

いくえみ 基本的にキャラにはいつも感情移入せずに俯瞰で描いてるので、だれにも自己投影しないし、私自身、ものすごくさめてるので、私も登場人物みんな読者に嫌われて当然だなあと思ってます。まあ、不倫話で「愛されキャラ」みたいなのがいるほうが、難しいとも思うんですが。イヤでダメな人間を描いているのは昔からのようです、読者の方によると。私は普通に描いているのですけど、なぜでしょうね……?

――一方で、「どの人物の気持ちもわかる」という声もたくさんあって。好きではないけど共感せずにいられないという、同族嫌悪的なものかもしれません。

いくえみ そういう部分で共感をしてもらえるのなら幸いですね。

――『あなたのことは~』にかぎらず、先生の作品に登場する人物たちは、複雑な家庭環境にあったり、コンプレックスを抱えてたり、どこかいびつですよね。いわゆる少女マンガの王道である愛されキャラはほとんど出てこないように思います。そして、彼らは恋をしてもつきあうことになってバンザイ! ハッピ~! ではなく、苦しさや切なさのほうが多いような気がします。

いくえみ ハッピーエンド大好きです。大団円で終わらせるとスカッとします。あれ?……おかしいですね(笑)。典型的な愛されキャラは嫌いとか、おもしろくないというわけではないんです。描いてるつもりで読者に嫌われたりするのでよくわかりません。

――先生の作品では、登場人物の過去の細かなエピソードなど、バックボーンがとても丁寧に描かれていて、だからこそひと言では説明できない複雑な魅力があり、彼らの言動にも深みや説得力が感じられるように思います。たとえば、有島は明るい家庭でのびのび育った男の子で、それが彼のチャラさとかズルさにも繋がってるんだけど、根本的には人がいいから憎めなくて。だからこそ自分とは正反対の麗華のようなタイプにひかれるし、頭があがらない、みたいな。物語の大筋と直接関係ない場合は、そこまで描かない方も多いですが、そこはやはりこだわってらっしゃる部分でしょうか? 

いくえみ 『あなたのことは~』は連続ではなく、飛び飛び連載でひとりずつ描かせてもらったので、せっかくだからとああいう背景も入れてみました。あとあと描きやすいですし。なくてもいいとは思いますが。

大学時代、かわいい女の子とのデート中に麗華からの電話でかけつけた有島。有島いいヤツ! と読者も感動。

大学時代、かわいい女の子とのデート中に麗華からの電話でかけつけた有島。有島いいヤツ! と読者も感動。

――美都がイメチェンした涼ちゃんを見て「あの眼鏡ふちが迷彩ぽくなってるところがなんかイヤ へんなの 前の方がよかった」と思うシーンとか、本人も言葉にできないようなモヤモヤした感情を、日常のなにげない言動に託して、あるあると共感させてしまうのがいくえみワールドだと思います。そういったリアリティあふれる描写は、たとえばユーミンのように現実のカップルを観察したり、だれかの話がヒントとなったりすることもあるのでしょうか?

いくえみ 友人から聞いた話は使ったりしましたが、それも大昔のことで。今はひたすら机に向かって考えてるだけです。観察しないですね。

カルボナーラは美都と涼ちゃんの特別なメニュー。それだけに、ここでそれを作るか~、という流れが秀逸。

カルボナーラは美都と涼ちゃんの特別なメニュー。それだけに、ここでそれを作るか~、という流れが秀逸。

――有島にハマっていく美都もそうですが、ストーカーと化していく涼ちゃんもしかり、恋愛によって今まで気づいていなかった別の自分を発見するといったことが、先生の作品では頻繁に描かれている気がします。それもまた、ひとつの恋愛の側面なのでしょうか?

いくえみ 恋愛はこうだよねとか、自分の価値観はこうですみたいなことは、話を作る時にいっさい考えてませんね。ひたすら作ったキャラを動かしていくのみです。私はこんな時こうしないけど、この人はこうするよね。こうすればいいのに、この人はしないからこうなるよね、あーあ……みたいな。その積み重なってしまった問題を片づけていくのが、ストーリーを終わらせるための私のお仕事なので、それに向かって進んでゆくだけなのです。私の考えは関係ない。あくまで客観視なんです。

2巻の終盤、ついに美都が麗華の家を突撃訪問! いやいや、あなたそれはいかんでしょ……。

2巻の終盤、ついに美都が麗華の家を突撃訪問! いやいや、あなたそれはいかんでしょ……。

――『あなたのことは~』は3巻以降、これまでは間接的な存在でしかなかった麗華と涼ちゃんが直接2人に絡んでゆくわけで、さらにややこしいことになっていきそうです。「不倫」から始まったこの物語は最終的にどんなテーマに着地してゆくのでしょう?

いくえみ 物語の行方は私にもまだわからないです。読んだ人が、それぞれ感じてくれたことがテーマですかねえ。

■次回予告
女性読者をキュンキュンさせる「いくえみ男子」をはじめ、読者を魅了し続ける「いくえみワールド」について!                                         

取材・構成:井口啓子

単行本情報

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