人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、日当貼先生!
元気でおしゃべり好き、ちょっとドジな「多恵」と寡黙だが彼女の話にちゃんと耳を傾ける優しいネコ頭の彼「猫氏」。2人が織りなすホンワカした日常劇に憧れる人があとを絶たない『オデット ODETTE』。 ネコでイケメンな(?)彼氏との理想の恋人関係という、新たな彼氏像が読者の心に刺さり、見事『このマンガがすごい!2016』のオンナ編6位にランクイン! 今回、最新単行本第3巻発売直前の時期に、著者の日当貼先生へのインタビューを敢行! なぜ「ケモノ男子」との恋物語、しかも頭だけネコ頭の彼氏という設定になったのか? 今後の2人はどうなるのか? など、本作についてたっぷりとお話をうかがうことができました! 『オデット ODETTE』の世界をさらに楽しむためにも必見ですよ!
猫氏はいったい何者か!? ギリギリまで答えていただきます!
――毎話、幸せで楽しいデートの風景が描かれ、「猫氏こそは究極の理想の彼氏」といった声も。「イケメン」界に革命を起こしたともいえる、猫氏の設定はどのように生まれたのでしょう?
日当 すごく単純に、頭が猫だったらおもしろいかなと思ったんです。当初は男にするか女にするかも考えてなかったですね。子どもの頃からずっと猫を飼っていますが、猫の顔ってけっこう表情豊かで、絵に描くのは楽しいんです。ヒゲもよく動くし。
――猫氏はけっこう長身でがっちりしていますよね。そこに猫の頭が乗っているって、かっこよさとかわいさを両方備えててズルい(笑)。いったいどういう生き物なんでしょうか。
日当 そこはあいまいにしています。猫っぽいしぐさなどはネタとして使ったりしますけど、「猫だからこう」というふうには描かない。たとえば本物の猫ならタマネギを食べてはいけないわけですが、そういうところには縛られないようにしています。
──最初からそういうスタンスは決めていたのでしょうか。
日当 何から何まで決めていたわけではなく、最近さじ加減がわかってきた感じです。初めの頃、子どもが猫氏を見て「猫だー」っていっちゃうシーンを描いたことがあるんですけど、これは担当さんと相談してボツにしました。これは、違うだろうと。
──猫氏って、マンガの表現上はしゃべらないじゃないですか。でも、実際は言葉をしゃべってるんでよね。
日当 1話では1コマだけしゃべってましたね。
──あっホントだ。フキダシは使われてないですけど。
日当 なので、しゃべってるんだと思います(笑)。描き文字程度はOKにしています。
──ずっと全然気にしてなかったんですよ。「あれ?」と思ったのは、多恵とは電話でしゃべってる場面ですね。あまり突っこむとワイドショーのレポーターみたいですが……(笑)。
日当 猫氏をふつうにフキダシでしゃべらせてしまうと、存在が生っぽくなってしまって、何かの異種族なのかなという気がしてきてしまうかなと。首から下についてぼかしていることともつながる話ですが。しゃべったり、手袋の下を描いちゃうと、私のなかでのぼんやりしたラインが崩れそうなので。
──首元もしっかりマフラーでカバーしてますもんね。
日当 猫氏は開襟シャツも半そでも着られないんですよ。だから夏はきびしい。浴衣ならギリOKだと思って描いたんですが、腕をまったく上げられないんで……これも苦しかったですね(笑)。
──と言いつつ、猫氏がふつうの猫と攻防するエピソードを描くあたり、攻めてますよ!
日当 あれは単純に猫氏が、あの猫に嫌われてるということを描きたくて(笑)。こういうことってありますよね。私、友だちの家の猫にすごく嫌われてて。懐かないどころか、初対面のときから向こうは攻撃態勢なんですよ! これは猫氏の家のまわりであるちょっとしたイベントという感じですね。多恵も知らない、猫氏の生活の一場面です。
いやなことはいっさい起こらない物語を描きたかった
──2人のデートのみに特化したストーリーにしたのはなぜですか?
日当 いやなことが起こらない話を作りたかったんです。私事なのですが連載を始める直前あたりで、いろいろヘコむことが続いて、「何の変哲もない日常が続く」っていうのは幸せなことなんだな…って感じたんです。寝て、起きて、好きな人と遊んでてっていう日常。ちょっとした悩みや問題はあっても、すぐ解決するようなもので……というようななにげない日常が続く話がいいなと。2人の間に危機が生まれるとか、いやなやつが出てくるとか、そういう起伏はこの作品にはいらないなと。
──デートは日常のなかにあるハレだと思いますが、気ばらないデートを描いていますよね。
日当 たまに特別な場所にいってみる話もありますが、基本はものすごく日常的なデートですね。特別なイベントに行くのが目的ではなく、むしろ行くまでの住宅街を歩いてるところとか、そういうところばっかりを話にしたいくらい。遊びにいくときって移動する間が長いし、そのときにした会話が思い出に残ることもありますよね。
──デートが予定どおりにいかなかった話もありますよね。
日当 極端な話、「きょう、何もなかったね」って一日でもいいと思ってるんですよ。
──私は第9話の映画を観にいく話がすごく好きです。パンフやチケット、フードを買って……というくだりのなかにも楽しい雰囲気があって、好きな人と過ごす幸福感が細部から伝わってきます。ネタに詰まったりすることはないですか?
日当 担当さんがちょいちょい「こういう場面を見たい」といってくれたり、ときどき手伝ってくれる友だちが「2人はこんなことしないの?」といってくれたりするのも参考になります。まあ、友だちとの遊びの延長線上にあるような世界なので、自分が遊びにいったときにあったことや見た光景などからも、小さいネタを拾っています。ネタといえば……多恵の上司がヤクルトファン[注1]っていうのを第1巻から小刻みに差しこんでるんですが、気にしてくれてる人いるかな?
──第3巻の第20話にも出てきましたね。日当先生は野球がお好きなんですか?
日当 広島ファンです!
──おおっ、セ・リーグ優勝おめでとうございます!
日当 ありがとうございます(笑)。もともと野球を見るのが好きなので、カープの試合以外も野球中継見てます!
──あっ、野球デートはどうですか?
日当 ないです! 残念ながらこの2人は野球に興味ないかなぁと。多恵ちゃんは福岡生まれなのでホークスをふわっと応援してますが、そこまで野球が好きなわけではない。猫氏も今のところは興味ないんじゃないかな……。
──う~ん、冷静ですね。そんなに野球好きならネタに入れたくなりそうなものですが。ご自分の興味とはしっかり線を引く……これが作家というものか!
担当 でも、公園にバットとボールが落ちてたら2人は遊びますよね。
日当 遊びますね。「野球やろうぜ」ってなりますね。
──さすが担当さん……打ち合わせってこういう感じなんですね。猫氏は多恵に調子合わせてるわけじゃなく、本人もはしゃいでますよね。
日当 猫氏はこの顔だからまったりして見えるけど、テンションは高いんじゃないかな。2人で楽しくなっちゃうと自然にバカなこともやっちゃうという感じじゃないでしょうか。自分では第3話の扉ノリが気に入ってます。ネームを出したとき、担当さんに「なんですかこれ?」っていわれたんですけど(笑)。この感じが好きで、第2巻のカバー下では2人に「ODETTE」の人文字をやらせたり。
- [注1]2015年、ヤクルト優勝時の番外編(2P)が第3巻に収録されます。