人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、日当貼先生!
元気でおしゃべり好き、ちょっとドジな「多恵」と寡黙だが彼女の話にちゃんと耳を傾ける優しいネコ頭の彼「猫氏」。2人が織りなすホンワカした日常劇に憧れる人があとを絶たない『オデット ODETTE』。 ネコでイケメン(?)な彼氏との理想の恋人関係という、新たな彼氏像が読者の心に刺さり、見事『このマンガがすごい!2016』のオンナ編6位にランクイン!
今回、最新単行本第3巻発売直前の時期に、著者の日当貼先生へのインタビューが実現。インタビュー第1弾では、「なぜ『ケモノ男子』との恋物語に?」、「頭だけネコ頭の彼氏という設定になったのか?」、「今後の2人はどうなるのか?」など、『オデット ODETTE』をより楽しく読めるポイントについてお聞きしました。 <インタビュー第1弾>
インタビュー第2弾では、子どもの頃に影響を受けた作品、カートゥーンを学んだ学生時代。そして会社員として働きつつも、熱心だった二次創作のお話、そこから漫画家デビューのきっかけなった“出会い”など、日当先生のよりパーソナルな部分に迫っていきます!!
【インタビュー】日当貼『オデット ODETTE』 みんなが憧れるカップルのほんわか日常劇を描いたワケとは!? 気になる猫氏の正体にも迫ります!!
周囲に本屋はナシ、学年に9人という環境がもたらした影響は!?
――日当先生は、どんなマンガに影響を受けてきたのでしょうか。
日当 子どもの頃に読んだマンガはすごく少ないんです。親が持っていた『じゃりん子チエ』(双葉社・はるき悦巳)を愛読してましたが。田舎暮らしで、小学校の頃は1学年に9人しかいないようなところに住んでいたので、近所に本屋がなくて。もっとマンガを読みたくても手に入らない。そういえば引っ越してきた子が貸してくれた『ぼのぼの』(竹書房・いがらしみきお)を読めたことはすごく楽しい思い出として残ってます。この2作品は、自分にとって大きな存在です。
――子どもの頃に好きになった作品は、自分のなかの軸になるものですよね。
日当 小学生の頃に夢中になったといえば、映画『チャーリーとチョコレート工場』の原作(小説の邦題は『チョコレート工場の秘密』)で有名なロアルド・ダール[注1]です。私は3人きょうだいなんですが、3人とも気に入ったので親が買いそろえてくれて、繰り返し読みました。『チョコレート工場』より低学年向けの作品も、今読んでもすごくおもしろいです。
──ダールの物語は大人が大人げなかったり、自由で痛快という印象があります。
日当 『父さんギツネバンザイ』、『ぼくのつくった魔法のくすり』、『魔女がいっぱい』、『魔法のゆび』、『いじわる夫婦が消えちゃった!』とか……好きな作品はいっぱいあります。総じてイヤな大人の描き方がヤバい(笑)。そういうところがすごく好きです。
──そんな大人がひどい目に遭ったり……。
日当 『おばけ桃の冒険』は、主人公のジェイムズ君がサイに両親を食い殺されて、すごく意地の悪い2人のおばさんに引き取られて地獄みたいな生活を送るんですが。
──冒頭からしてブッ飛んでますね。
日当 ある日、謎の薬の作用で巨大な桃ができて、その桃にくっついていた巨大化した虫と旅をする物語です。出かける時に、このでっかい桃がおばさん2人をひき殺していくという(笑)。ろくでもないんだけど、胸に全然よどみが残らないのがすばらしいと思っています。
──ファンタジーというよりはナンセンス。猫氏の存在にも共通する感覚があるのでは。日常にするっと謎が溶けこんでいる状態として。
日当 あの雰囲気にはすごく憧れています。『じゃりん子チエ』や『ぼのぼの』にしてもそうですが。
──その後は、マンガが手に入る環境になったんですか?
日当 中学生になってからは、生活の範囲が広がったので本屋に行けるようになったんです。学年9人だった同級生も増え、オタクな友だちもできて。その頃好きだったのは『封神演義』(集英社・藤崎竜)、『無限の住人』(講談社・沙村弘明)、『トライガン』(徳間書店・内藤泰弘)……スクウェア・エニックス系のマンガもかなり読みました。
──一気に広がりましたね。恋愛少女マンガなどは読まなかったんですか?
日当 気づいたら少年マンガばかり読んでいて、そっちにばかり手を伸ばしてしまったので、恋愛少女マンガにはあまり縁がなかったです。「少年冒険譚」のノリが性に合っていたのかもしれません。
カートゥーン(風刺画)を学んでいた大学時代
──マンガを初めて描くようになったのは?
日当 ちゃんと描いたのは大学生になってからです。京都精華大学のマンガ学部で、「カートゥーン」[注2]と呼ばれる1コママンガを学んでいまして……。
──1コママンガですか!?
日当 いわゆる風刺マンガです。
──ずいぶんマニアックな! なぜ1コママンガを学ぼうと思ったのでしょうか。
日当 高校の終わり頃、『ルパン三世』の原作マンガにドハマりしたんです。調べていくとモンキー・パンチ先生は京都精華大のゲスト講師をされていることがわかり、さらにロアルド・ダール作品の多くの挿絵を描いている クェンティン・ブレイク[注3]の絵がかなり好きだったんですが、彼も風刺画を手がけていると知って……ここで好きなものがカチッとつながったので、当然の流れみたいなもので。
──風刺画を学びつつ、ストーリーマンガも描いていたんですね。
日当 ストーリーマンガコースの授業にももぐりこんでました。元マンガ編集者の先生が作品を見てくださったんですよ。
──その頃には漫画家になろうと決めていた?
日当 いえ……実際はオリジナルよりも二次創作のほうに熱心でした(笑)。大学卒業後は、ゲーム会社に就職しましたよ。
──そこではどんなお仕事を?
日当 3Dのモデルを作ったり、キャラクターのデザインを考えるとか……いわゆるキャラ班です。
──多くの人が憧れる仕事じゃないですか! じゃあ、お仕事も楽しかったんですね。
日当 幸いみんな仲がよくて、業務が終わったらコンビニでお酒を買ってきて、共有スペースでボンバーマン大会するような職場でした。
──仕事しながら、ちょこちょこマンガを描いていた?
日当 仕事を覚えるのに必死で、マンガにあまり時間がさけなかったんですけど、たまにコミティアに出ていたら「COMICポラリス」の編集さんが連絡をくださって。これがデビューのきっかけになりました。たまに短編を載せてもらえるようになりましたが、スローペースでしたね。そのあと、いろいろあって会社を退職したのですが、同じ頃『オデット ODETTE』連載の話が出てきまして、現在に至る、という感じです。
担当 日当先生がコミティアで配ったというペーパーを見せてもらったんですよね。これが『オデット ODETTE』の原型でした。猫氏がひげを動かしてるだけの4コマで……第1巻冒頭の「じゅんび」とほとんど同じもの。すごくかわいらしくて「次、これやりましょう」と、すぐ第1話目のネームをいただいて連載をお願いすることにしたんです。
- [注1]ロアルド・ダール イギリスの作家、脚本家。映画化された作品も多く、主な著作には「飛行士たちの話」、「あなたに似た人」、「キス・キス」、「おばけ桃の冒険」、「チョコレート工場の秘密」、「少年」、「単独飛行」などがある
- [注2]カートゥーン 複数の芸術形式についての呼称。ユーモラスな傾向を備えたアメリカやヨーロッパの1コママンガか、子ども向けのアニメーション作品を指し示す言葉として用いられている。
- [注3] クェンティン・ブレイク イギリスの児童文学作家、イラストレーター。多くの児童文学作家と共作もしており、ロアルド・ダールもそのひとり。