『鬱ごはん』が「普通の食生活」のはず
――本誌『このマンガがすごい!2014』では、『オンノジ』だけではなく、昨年刊行された『鬱ごはん』(秋田書店)と『バーナード嬢曰く。』(一迅社)も多くの票を集めました。この2作は、また『オンノジ』とは違う世界で、施川先生の引き出しの多さを感じます。たいして食事に興味がない鬱野くんを主人公に据えた『鬱ごはん』は、いま氾濫する“食マンガ”に一石を投じるような作品ですね。
施川 編集さんから食テーマのマンガをやってほしいと言われたものの、最初はあまり気乗りはしなかったんです。ぼく自身、主人公と同じでグルメでもないし、飯もうまそうに描けるわけじゃないし。
――食べるのが嫌いなわけではないけど、ときには面倒くさく感じることってありますよね。でも、普通の食マンガでクローズアップされてきたのは「食べる幸せ」のみだったので、『鬱ごはん』は衝撃的でもあり、「そうそう」と膝を打つ作品でもあるんですよ。
施川 人はだれでも毎日2回や3回は食事するわけですけど、毎回そんなにドラマティックなはずもないですよね。『鬱ごはん』が普通のはずなんですよ。おいしいおいしいと毎回感動してるほうが、ちょっと嘘っぽいんじゃないかと……。
――まあ、毎食満足のいく食事をしている人なんていたとしてもごく少数のはずで。実際は「ちょっとしょっぱ過ぎるな」とか思いながら食べていたりするわけです。かといって悪態をつくほどでもないし。『鬱ごはん』でも、「まあまあだな」という感情が多く描かれていますよね。
施川 そう、食べもの自体をけなしてるわけではないんです。ほぼ商品名そのままに近い出し方をしているので、その食べものがマズイとかじゃなく、鬱野の感じ方に問題があるって方向で描いてます。
――気に入っているエピソードは?
施川 鬱野がホットケーキを焼く回かな。
――ああ、すごい絵[注6]を描いちゃいましたよね……人によってはトラウマになりそうですが(笑)。これは実体験にもとづくネタですか?
施川 はい。焼いてて、ふつうに「気持ち悪いなー」って思ったことがありますよ。
担当編集 読者の皆さんは、すごく共感するという人と、おもしろいけど全然共感はできない、という人にわかれているみたいですね。
施川 まあ、飯はおいしく食べたいですもんね。こんなもの見て共感しなくてもいいですよ(笑)。
――でも、『鬱ごはん』というタイトルは強烈ですが、実際はそんなにネガティヴな内容じゃないと思います。「おいし~い!」というわけではないだけで。
施川 そうですね、(鬱野も)そんなにひどい生活してるとも思えない。店員との接しかたがわからなくてオドオドしたりすることはあっても、それなりにエンジョイしてますから。
――鬱野、けっこうちゃんと自炊もしてますよね。アルミホイルに油をためてポテトフライを揚げるエピソードも、施川先生の実体験なんですか?
施川 そうです。あの時は本当にひどい思いをしたんですよ! 食べたあと、ずっと口のなかが、工場の排煙みたいな臭いになっちゃって。
――せめてネタに生かされてよかったですかね(笑)。
そして驚きの発表が……!?
――『オンノジ』と『鬱ごはん』をはじめ、かなり異なるタイプの作品を、ほぼ同時期に発表されているのも、読み手としては興味深く思えます。
施川 ……じつは今、『オンノジ』や『鬱ごはん』とは、またちょっと違うタイプの作品を秋田書店さんで手がけていまして……。
――「もっと!」と「Championタップ!」で連載している、『サナギさん』の新作ですか?
担当編集 いえ、「別冊少年チャンピオン」(秋田書店)で連載中の、『少年Y』という作品があるんですが。じつは、あの作品の原作を施川先生が担当しているんですよ。
――とうじたつや先生が作画担当で、原作は……「ハジメ」という名義の方が担当されていましたが……そのハジメ先生が、施川ユウキ先生の別名義ということですか?
施川 ええ、まあ……詳しい説明ありがとうございます。全然言ってなかったんですけど、その……作品の認知度を上げるために、言った方がよいっていう話になりまして。ただ、「映画『北京原人』の北京原人役[注7]は、実は本田博太郎さんでした!」みたいな、「だから何だ?」って話だと思いますよ……。
――いやいや、施川作品のファンにとっても、『少年Y』読者にとっても、かなり驚きの情報なのでは……。これ、このインタビューが情報初解禁なんですよね?
施川 今まで聞かれることもなかったので。
――では、続いて『少年Y』に関するエピソードについても、ぜひうかがいたいと思います!
【後編へ続く】
- [注6]すごい絵 鬱野の「懐かしくておいしいモノ」=ホットケーキを焼く途中にできる気泡が、コモリガエルの背中とオーバーラップする衝撃のシーン。一連の展開は、ぜひ単行本にて。
- [注7]映画『北京原人』の原人役 1997年に公開された映画『北京原人 Who are you?』で、全身に特殊メイクをほどこして北京原人役に挑んだのは、俳優の本田博太郎。北京原人役が誰なのかは、映画の公開直後までトップシークレットとされていた。
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取材・構成:粟生こずえ・編集部 撮影:編集部