人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、岩本ナオ先生!
『このマンガがすごい!2017』オンナ編第1位に輝いた岩本ナオ先生の新作『金の国 水の国』。
本誌でも8ページにわたって岩本ナオ先生のインタビューを掲載していますが、それでも紹介しきれなかったお話も盛りこんだディレクターズカット版として、『このマンガがすごい!WEB』限定でお届けしちゃいます!
『このマンガがすごい! 2017』
『このマンガがすごい!』編集部(編) 宝島社 ¥520+税
(2016年12月10日発売)
前回、岩本先生が本作を描くにあたって影響のあったマンガ、ヨーロッパに憧れた幼少期、そして大学時代に学び夢中になった西洋史が、制作時に大いに生かされていること……など、岩本先生のルーツ、『金の国 水の国』のルーツをうかがいました。
<インタビュー第1弾>
【インタビュー】岩本ナオ『金の国 水の国』【祝!「このマンガがすごい!2017」オンナ編1位!!】 『町でうわさの天狗の子』から2年半……ファンを魅了する“岩本流マンガづくり”大公開!
今回はさらに“岩本流マンガづくり”について深く掘り下げてうかがっただけでなく、岩本先生が最近読んでいるという、超人気少年マンガ雑誌のマンガ講座本の話など、赤裸々に語ってくださいました!
ずばり! 一番ラクに描けるのがファンタジー
――考えてみれば『町でうわさの天狗の子』も和風ファンタジーだったんですよね。学園ものの世界とお山と、2つの世界にひき裂かれているという状況はありましたが。
岩本 「天狗」はデビューして最初の連載だったので……少女マンガは学園ものじゃないと、という思いがあったので。本当はファンタジーが描きたかったんですよ。
――そこで2つをミックスしたんですね。
岩本 学園ものは、自分よりうまく描ける人がいっぱいいるのがわかっているので、それを意識してしまうと、どんどん息苦しくなっちゃう。年齢的にも高校生のリアルっていうのが遠くなっていくし。いっぺん自分が通過してきたことだからラクに描けることもあるはずなんですが……ずっと学園ものを描き続けられる漫画家さんもたくさんいるので、向き不向きの問題かなとは思いますが。
――じつは当初からファンタジーが描きたかった?
岩本 デビューした当時は、ファンタジーは敬遠されがちだったかもしれません。その頃、他誌で描いてる友人の漫画家さんも「ファンタジーは描かせてもらえない」といってたと思います。最近、『ダンジョン飯』のようなヒット作が出てきてくれたおかげで、状況が変わってきてるんじゃないかと思うんですよ。
あらためて向きあう、「マンガの楽しさ」とはなんなのか……
――新連載の『マロニエ王国の七人の騎士』は、なぜ7人になったんですか?
岩本 なんとなく。漠然と、5人より多くしたいと……。
――騎士の名前がまたおもしろい。「眠くない」「博愛」「暑がりや」「寒がりや」「獣使い」「剣自慢」「ハラペコ」……こういうの、昔のファンタジー文学などに出てきたりしますよね。
岩本 そうですね。中国の昔の物語にありました。領主がむちゃくちゃ言ってくると、名前のどおりの得意技を使って解決する、みたいな。
――あ、有名な絵本で『シナの五人きょうだい[注1]』もそういう話ですね。『マロニエ』は7人の男の子それぞれを楽しんで描かれてる感じが伝わってきます! 少年マンガっぽいノリもありますよね。
岩本 今でも「ジャンプ」は愛読してますし、すごく参考にもしてるんです。『青の祓魔師』を見ながら……こういう線を入れたらごちゃごちゃせずにトーンも使わずに立体感も出るのかなと研究したり。
――なんと勉強熱心な……!
岩本 なにしろ『ジャンプ流![注2]』も年間購読してますので。正直、もうちょっとちゃんとマンガを描けるようになりたいと思っていて、自分に何が足りないのかということに向きあってるところなんです。キャラクターの描きわけとか。マンガの楽しさってなんなのかを勉強しなおしたいと。
――何かそう思うきっかけがあったのでしょうか。
岩本 自分の作品を客観的に振り返ると、いまだにマンガを描くのに照れがあるんだなと……。全然描けてないと思うんです。これ、しょっちゅう言ってるんですが、もっとイチャイチャしたマンガが描きたい気持ちはあるんです。それが『天狗の子』も『金の国』もキスシーンが入らなくて。
――あえて描かないんじゃなく、描きたい気持ちはあったんですね。
岩本 あるんです。さいとうちほ先生[注3]のマンガくらいイチャイチャさせたいんです!
――先生ご自身の気持ちがともなわないと描けないから、そこに向きあおうということですね。
岩本 それが今の大きな目標ですね。
――そのものズバリのシーンが描かれてなくてもラブラブなんだろうなと想像はできますが。う~ん……でも、そう言われると濃厚なシーンも見たくなりますね!
岩本 『マロニエ』はコメディですが、めっちゃイチャイチャするシーンも描きたいです。照れをなくして、自分を解放して。
――新境地への挑戦宣言ですね。
岩本 セリフでいえば、もっとマンガっぽいキャッチーな言い回しも使ってみたいし。それで『ジャンプ流!』で勉強しているわけです。
- 注1 『シナの五人きょうだい』 C・H・ビショップ著の絵本。シナに住むよく似た五人の兄弟は、特異な力を持っていた。一番目の兄は海の水を飲みほすことができたり、二番目は鉄のように固い首を持っていたり……。ある日、事件に巻きこまれてしまった兄弟はそれぞれの力をあわせて事件を解決するという物語。
- 注2 『ジャンプ流!』 ジャンプ漫画家たちの技術やマンガづくりの裏側を掲載・収録したDVD付分冊マンガ講座書籍。今までに「鳥山明」「岸本斉史」「尾田栄一郎」「富樫義博」「堀越耕平」「古館春一」……など、新旧のジャンプ作家たちを特集した本が出版されている。
- 注3 さいとうちほ先生 漫画家。「剣とマドモアゼル」でデビュー(「コロネット」春の号掲載/小学館)。『円舞曲は白いドレスで』『もう一人のマリオネット』『花冠のマドンナ』『少女革命ウテナ』などで人気を博す。現在、「月刊フラワーズ」で『とりかえ・ばや』を連載中。作中ではドラマティックな平安宮中の恋愛模様が展開!