魅香がほかの人間に殺されないように、そして自分で殺さないようにと、ただでさえギリギリな状況なのだが、厄介なことにこの“ID”感染者たち、精神構造の変化に伴って基礎的な身体能力が向上し、さらに特殊な能力まで獲得しているのだ。自分の髪を自在に操る者や、血液を毒に変える者など、危険人物が次から次に現れては魅香の命を奪いにかかる。
対する卓も“ID”感染により手に入れた眼の力を使って、彼らの行動を阻止していく。ただスプラッタ描写ばかりではなく、この特殊能力を持つ感染者同士の戦いも本作の大きな魅力だ。

“ID”に感染したサッカー部主将の篠宮は、強靭な脚力を活かした生首シュートが得意技。

神城はこうした個性豊かな感染者たちとの死闘を乗り越え、魅香を巡る学園の惨劇は収束。神城と魅香はとある組織に保護され、どうにか一段落……と思いきや、今度は魅香が“ID”に感染！　魅香は神城に対する想いを打ち明けると、そのまま姿を消してしまう。

月光が降り注ぐなか、好きだった幼なじみから想いを打ち明けられるシーン。首さえ絞められていなければ最高のシチュエーションなのに……。

それから1カ月後、神城は魅香の手がかりを求めて、「ルーディメント」の一員となった。このルーディメント、自らの殺意を抑えこむことのできるという“ID”感染者のなかでも特別な人間を集めた組織。彼らは“ID”に感染した人間の捜索と保護を行うのが主な任務。
しかし、感染者を捜しているのは彼らばかりではない。神城は任務の途中に、ある目的のために感染者の隔離と処分を行う組織「C・I・D」（シド）のメンバーと遭遇。そしてこの一件を皮切りに、ルーディメントとC・I・Dの全面対決が始まってしまう……！

C・I・Dのメンバーのひとり、林さん。感情が欠落しているので、ごく平常心で人を殺すことが可能！　下手すると感染者より性質が悪いぞ！

駆け足で紹介してきたが、以上が『今夜は月が綺麗ですが、とりあえず死ね』の第1巻～第4巻の主なストーリー展開となる。
流血描写や暴力描写などのエグいシーンが印象的になる本作だが、その一方で、ストーリー面でも、なぜこのような感染症が生まれたのか？　たびたび神城をサポートしてくる外国人・ネイブの正体は何者なのか？　いくらなんでも魅香はモテすぎではないだろうか？　などなど謎や伏線も多く散りばめられ、タイトルやグロ描写などのインパクトだけの作品ではないのだ。

色々事情通な謎の外国人ネイブ。神城を助けてくれることもあるが、どうも一筋縄ではいかない男だ。

そして何より神城の葛藤する様子が心にどんどん突き刺さってくる。
好きという想いが強まれば強まるほど殺意が高まってしまうというこの状況。今は自分の前から姿を消した魅香との再会を望む神城だが、仮に再会できたとしても「愛情=殺意」となった2人に殺しあい以外の未来が待っているのか……。
そんな先が読めない展開で、続きが気になってしまうが、今月14日には最新巻である第5巻が発売される！　ますますエスカレートしていく戦いのなかで、2人を待ち受ける運命は!?　前からファンだったという人も、興味を持ったという人も要チェックだ！

＜文・犬紳士＞
養蜂家。好きな野鳥はメジロ。
Twitter:@gentledog