2人はただの高校生じゃない。なぜ今が「西暦5738年」だとわかったかといえば、千空が「ただ数えた」からだ。時間を秒単位で、3700年以上も途切れることなく。そして大樹は文明復興に必要なマンパワーを提供できる体力のカタマリ。どちらもチート能力には違いないが、マッチ1本残ってない「終末後」ではささやかすぎる武器だ。だからこそ、燃える!
なんという精神力……!
コミック第1巻のスゴさは、「大まじめに文明をゼロから作り直す」ことにある。石化が解けた理由は、石を溶かす硝酸のおかげかもしれないと仮説を立てる。それが外れていたなら、エタノール(酒のアルコール)を加え、金属を腐食させるナイタール液をつくればどうだろう……。試行錯誤を繰り返し、ついに2人は石化を解除する「奇跡の水」を手にする。「仮説と検証」、これぞ科学の基本だ。
人類を石化する謎の現象という「ファンタジー」に、科学の力で勝つ。こういうとカッコよさそうだが、コウモリの糞から硝酸を集めたり、ブドウを踏み潰して発酵させ、さらに蒸留する……という作業はとことん地味だ。
この「地道な科学」をワクワクして読ませるマンガ力の高さは、『アイシールド21』などの稲垣理一郎(原作)と『ORIGIN』などのBoichi(作画)の最強タッグによる。魅力的なキャラクター、問題を打破する論理の冴え、巧みな話運びが「硝酸とエタノール」を輝かせるのだ。
第1巻の中盤では、霊長類最強の男・獅子王司(ししおう・つかさ)が復活。素手でライオンを屠れる武力をもって、純粋な若者だけで生きていく、つまり大人たちを“浄化”(殺害)する理想を掲げ、全人類を助けようとする千空と対立する。
2人が描くビジョンは食い違い、対立を深めていく――。
正義と正義のぶつかりあい、まさに少年マンガの王道。「科学がファンタジーに勝とうとする」だけでもおもしろいのに、ジャンプマンガらしいアツさが掛けあわされた“化学反応”は計り知れない! 今後の展開が楽しみだ。
<文・多根清史>
『オトナアニメ』(洋泉社)スーパーバイザー/フリーライター。著書に『ガンダムがわかれば世界がわかる』(宝島社)、『教養としてのゲーム史』(筑摩書房)、共著に『超クソゲー3』、『超ファミコン』(ともに太田出版)など。