「あの話題になっているアニメの原作を僕達はじつは知らない。」略して「あのアニ」。
アニメ、映画、ときには舞台、ミュージカル、展覧会……などなど、マンガだけでなく、様々なエンタメ作品を取り上げていく「このマンガがすごい!WEB」の人気企画!
そう、これは「アニメを見ていると原作小説や関連のマンガも読みたいような気もしてくるけれど、実際は手に取っていないアナタ」に贈る優しめのマンガガイドです。「このマンガがすごい!」ならではの視点で作品を紹介! そしてもちろん、原作マンガやあわせて読みたいおすすめマンガ作品を紹介します!
今回紹介するのは、『キノの旅-the Beautiful World- the Animated Series』
時雨沢恵一の小説『キノの旅』は2000年に電撃文庫で第1巻が刊行されて以来、シリーズを重ね、現在ではシリーズ累計820万部を突破する大ベストセラーとなった。電撃文庫の看板シリーズのひとつではあるが、児童書レーベルでの出版や新聞連載など、幅広い層に支持されている。
『キノの旅 the Beautiful World』(電撃文庫)
時雨沢恵一(作) 黒星紅白(イラスト)
KADOKAWA ¥530+税 (2000年7月10日発売)
旅人キノと言葉を話せる二輪車のエルメスが、多数決ですべてが決まる国、市民権が欲しい者をコロシアムで戦わせる国、大人になるために手術をする国……といった様々な国を巡るロードノベル。プレーンながら行間を読ませる文章、読み切り短編という気やすさ、現実社会に通じる寓話性、人気イラストレーター・黒星紅白の雰囲気あるイラスト。それらが組みあわさって、2000年代前半、独自の存在感を放っていた。
じつは『キノの旅』は2003年に1度テレビアニメ化されている。14年ぶりとなる今回の再テレビアニメ化を待ちわびたファンも多いだろう。
2003年版と今回の2017年版のTVアニメは制作会社は異なるが、今回のキノを演じる人気声優・悠木碧のデビューが2003年版のTVアニメ『キノの旅』の最終話「優しい国」で登場した少女「サクラ」だったという。サクラはある意味で「もうひとりのキノ」ともいえる存在であり、ここにちょっとした物語性を感じる。
10月6日に放送された第1話は「人を殺すことができる国」。丸みを帯びた2003年版のキャラデザよりも、今の黒星紅白のイラストに近いキャラクターデザインとなっている。CGで描写された相棒のエルメスも細かなディティールが再現されていてかっこいい。
登場人物の心の動きにも焦点が当たっていて、原作の淡々として乾いた空気のなかに存在する温かみがアニメでもうまく表現されている。ロードノベルだけあって旅先や街中の風景も美しい。それぞれの国の違いを表現するため、各話ごとに美術の制作会社を変える手法を取っているとのことなので、各国を見比べる楽しみもありそうだ。
すでにどの国が登場するのかは公式サイトで発表されている。個人的には、原作小説でも強い衝撃を受けた「優しい国」「大人の国」が今回はどのようにアニメ化されるか注目したい。
TVアニメ『キノの旅-the Beautiful World- the Animated Series』を観たあとに……
今回、TVアニメ『キノの旅-the Beautiful World- the Animated Series』をさらに楽しみたいアナタに、読んでほしいマンガ作品を紹介しちゃいますよっ。
『キノの旅 the Beautiful World』
時雨沢恵一(作) 郷(画) 黒星紅白(キャラクターデザイン)
『キノの旅 the Beautiful World』 第1巻
時雨沢恵一(作) 郷(画) 黒星紅白(キャラクターデザイン)
KADOKAWA ¥570+税 (2017年10月7日発売)
今回のアニメ化発表と同時期に始まった『キノの旅 the Beautiful World』のコミカライズは、電撃コミックスNEXT版(作画・郷)とマガジンエッジKC版(作画・シオミヤイルカ)の2作。意外にもコミカライズは初という『キノの旅』。今回は電撃コミックスNEXT版を紹介したい。
第1巻には今回のアニメでピックアップされた「人を殺すことができる国」「優しい国」のほか、「撃ちまくれる国」「過去のある国」が収録されている。原作者の時雨沢恵一はガンマニアとして有名だが、じつはこのマンガの作画担当である郷もかなりのガンマニアだそうだ(原作者あとがきに「郷さんはたぶん私よりくわしいガンマニアでして」とある)。『キノの旅』の隠れた見どころでもある、銃器描写が濃いのも特徴だ。
『キノの旅 the Beautiful World』のほかに、このマンガもおすすめ!
『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』
たもりただぢ(画) 時雨沢恵一(作) 黒星紅白(キャラクターデザイン) 川原礫(原案)
『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』 第1巻
たもりただぢ(画) 時雨沢恵一(作) 黒星紅白(キャラクターデザイン) 川原礫(原案)
KADOKAWA ¥570+税 (2016年10月8日発売)
ガンマニアの時雨沢恵一が、川原礫の小説『ソードアート・オンライン』に登場するVRゲーム「ガンゲイル・オンライン」の設定を気にいり、自ら関係者に頼みこんで実現したスピンオフ小説『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』。そのコミカライズも、“ちっちゃい女の子”レンが機敏に立ち回り銃撃戦で活躍するギャップ感が評判を呼んでいる。
主人公は長身がコンプレックスの女子大生・小比類巻香蓮。ちっちゃい女の子アバターで参戦した銃と荒野のVRゲーム『ガンゲイル・オンライン』に大ハマりして5ヵ月。そんなとき、先輩プレイヤーにバトルロイヤル大会に誘われる!?
『キノの旅』でもにじみ出ている時雨沢恵一の銃への愛が全開。コミカライズはそれぞれの銃の描写もはっきりとわかり、爽快な銃撃戦がより鮮明に伝わってくる。
<文・卯月鮎>
書評家・ゲームコラムニスト。週刊誌や専門誌で書評、ゲーム紹介記事を手掛ける。現在は「S-Fマガジン」(早川書房)でファンタジー時評、「かつくら」でライトノベル時評を連載中。
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