「スープ屋しずく」に赴いた理恵は、麻野と慎哉から、露を娘だと認識する可能性がある人物として、夕月逢子という女性の存在を知らされる。
ここで物語は過去にさかのぼり、夕月親子と麻野の妻・静句との出会いが描かれる。
麻野静句は、交番勤務の警察官である。
ここで勘の良い読者であれば、静句の姓が「麻野」であることに「おっ?」と思われるであろう。結婚前から静句が麻野姓だったのであれば、「スープ屋しずく」のシェフ・麻野暁は婿入りした、ということだろうか……。
そうした静句の前に内藤という男が現れる。無職の遊び人だが、彼の実家は一等地に土地を持ち、一族は議員や官僚といった有力者を輩出していた。ちゃらちゃらした内藤を静句は嫌っていたが、逆に内藤は静句を気に入って、何かとからんでくるのであった。
あるとき静句は、ちょっとしたトラブルに遭遇する。もともとは子ども同士のケンカだったのだが、若い母親が激昂し続けたのだ。その母親が夕月逢子で、彼女が連れていたのが日向子であった。逢子は、静句が諭したことで怒りをおさめ、騒動は収束した。
これが静句と夕月親子との出会いであった。
その後、静句は日向子が公園の水道をがぶ飲みしているのを見かける。
体調が悪いのか倒れてしまった日向子をアパートに連れ帰ると、静句は手製の野菜スープを食べさせた。母親の虐待を疑った静句だったが、日向子からは「もう二度と、私たちに近づかないで」と拒絶されてしまう。
ここからストーリーはさらに意外な展開を見せていくのだが、それを説明するのはネタバラシになってしまうため、あとは読んでみてとしかいい様がない。
原作者・友井羊が張り巡らした、ちょっと映像化は難しいのではないか、というトラップを見崎夕はじつにうまくマンガ化している。真相が判明したあとでも、もう一度読み返したくなるはずだ。
そして、「わたしを見過ごさないで」という題名が象徴的にあらわしている、家族の絆をめぐる物語が泣かせてくれる。驚きと感動の両方が味わえる作品なのである。
<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。「2017本格ミステリ・ベスト10」(原書房)でミステリコミックの年間レビューを担当。
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