話題の“あの”マンガの魅力を、作中カットとともにたっぷり紹介するロングレビュー。ときには漫画家ご本人からのコメントも!
今回紹介するのは『水上悟志短編集「放浪世界」』
『水上悟志短編集「放浪世界」』著者の水上悟志先生からコメントをいただきました!

『水上悟志短編集「放浪世界」』
水上悟志 マッグガーデン ¥571+税
(2018年1月10日発売)
『惑星のさみだれ』
『戦国妖狐』などで知られる水上悟志の短編集。
日常系、SF、ファンタジー、時代ものと、幅広いジャンルが取り揃えられている。
全5作の収録作のうち3作品が24ページ、短いもので16ページ、中編が74ページと長短はさまざまながら、いずれの作品も描きたいものの尺にあわせて描かれたボリューム感で、その適切な長さがなんとも心地よい。

「竹屋敷姉妹、みやぶられる」は、軽妙な日常系。竹屋敷家の双子のメガネっ子姉妹・雪花と冬花は、「同一人物になる」ことを究極の目的にしている変わり者。クラスを入れかわっても見破られないほどの2人だったが、冬花のクラスの梅松くんにはどうやら見分けられているようで、すっかりパニックに。思いつめた2人は梅松くんに「「しんでもらう」」と襲いかかるが…。双子姉妹にトキメキとともにもたらされるささやかなうれしさに、ついついこちらの頬まで緩んでしまう。

梅松くんにみやぶられ、驚く雪花と冬花。不思議がるふたりは無茶な行動に……。「モブ顔ヒロイン」を見分けられる男子の眼力の源は?
「まつりコネクション」は何気ない日常にふりかかる、すこしふしぎな物語。人間の頭の上に住んでいる「小さな宇宙人(ドワーフ)」が見えるまつり。地球はすでに侵略されている…わけではなく、ドワーフたちは人間の意識に影響されながらただ頭の上に住んでいる。そんなある日、「超次元UFOロボみそ田楽」に乗りこみ、宇宙のドワーフたちが大挙して地球へとやってきた。

地球に侵略を開始した超次元UFOロボ・みそ田楽。謎の「地球意思」にも歓迎(?)され、内部から大量の「小さな宇宙人(ドワーフ)」が街中に放出される。
「今更ファンタジー」は老婆からもらった魔法のランプから出現した妖精に頼んで、子どもの頃の夢を実現する話。くたびれた中年男がランプの精に願うやいなや、たちまち中二病全開の「ぼくがかんがえたさいきょうのゆうしゃ」に! 突如やってきた衣装も性格もごちゃごちゃしている「全部乗せヒロイン」の話によると、千年前に宇宙犯罪で魔界に封印されていた伝説の妖魔獣王が復活。超能力魔剣士サイボーグ精霊使いとなった中年男は、妖魔獣王を倒すために立ち向かう! 物語のなかでランプの精が唱える呪文「てけれっつの…ぱあ!!」は、落語「死神」にでてくる死神を追い払う呪文。ストンときれいに落ちるサゲの部分も落語風で楽しい。

中学時代のノートに書かれた勇者は中二病全開!! ある種の「なろう系」だが、落語風の展開に思わず見入ってしまう。