ついに整は、警察から一歩も出ないままに、真犯人をつきとめる。
整はいう。「真実は人の数だけあるが、事実はひとつしかない」と。客観的な事実はどの角度からみても変わらないが、虐げた側と虐げられた側とでは、まったく違う記憶となる。人間には感情がある。主観をそぎ落とした事実と向きあうのは、ときにとても難しい。
整がひょうひょうとしているのがいい。正義感も反骨心も感じられないところがいい(実際のところ、彼なりにいろいろあるのかもしれないけれど)。大げさな言葉で人を断罪したりしないところが、とてもいい。
本作のタイトルは『ミステリと言う勿れ』。こんなに傑作の“ミステリ”なのに、このタイトルである。
サラリと現れてサラリと謎を解く、整のちょっと天邪鬼な存在感に重なるかもしれない。とても素敵なタイトルだと思う。
<文・片山幸子>
編集者。福岡県生まれ。マンガは、読むのも、記事を書くのも、とっても楽しいです。