彼女はなぜ、こんな場所で、こんなふうにたったひとりで裸で暮らしているのか。
作中ではその背景はいっさい語られず、ただ海を渡る廃線、水辺の廃屋、海底に沈んだ街……といった終末世界を暗示する風景が、繰り返し登場する。
水も食料もお酒も大量にストックされ、当分は何もしなくても生きられるが、未来へとつながるイメージは皆無な静寂に包まれた世界で、唯一の「生」であるヒロインと猫は、あらゆる規範やしがらみとは無縁に、無邪気に食べ、遊び、酔っぱらい、惰眠を貪る。
なるほど、これは一種の「ユートピア」なのだ。
その非現実世界にいきいきとしたリアリティをもたらしているのが鶴田謙二の圧倒的画力。
女と猫の、なめらかな手触りや生あたたかい温度や匂いまでが漂ってくる、しなやかな肢体。
気怠そうにしているかと思えば、怒ったり、笑ったり、めまぐるしく変化する表情。
すべてがパーフェクトで1コマ1コマが美しい絵のように完成されていて、これじゃあセリフは不要だよなあ……と納得したり。
これといったストーリーもなければ、テーマもメッセージもない。
ベッドに寝そべり、ヘアをいじくりながら(!)誰かと電話したり、「トムとジェリー」よろしく、策略&追いかけっこをしたり、ゆっくりと流れてゆく他愛のない時間がかけがえなく感じられて、ずっと浸っていたくなる。
そのテのフェチの方にはもちろん、それ以外にも、無人島級の一冊になること必至!
『ポム・プリゾニエール La Pomme Prisonniere』著者の鶴田謙二先生から、コメントをいただきました!
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69