『シトラス学園』は言ってみれば、ふと大人びた哲学的な言葉をもらす子ども像が特徴的な『PEANUTS』と、ハンナ・バーベラ・プロダクション(代表作に『宇宙家族ジェットソン』『原始家族フリントストーン』など)のポップなアメリカ60年代アニメをかけ合わせた雰囲気の作品だ。
本書に収録されているのは、「CUTIE comic」(宝島社)への初連載作品(単行本『シトラス学園 キューティ』に収録)のあとを受け、2002年に「Vanilla」(講談社)に連載された作品群。
10年以上前に執筆された作品ということになるが、後のヒット作『マシュマロ通信』に通ずる山本ルンルンの作品世界はすでにがっちり構築されていて、完成度の高さにうならされる。
巻頭には“シトラスマウンテン”にしか棲息しない“ウサギイヌ”をフィーチャーしたフルカラーの描き下ろし短編「素敵なエブリデイ」も。
そう、このウサギイヌこそはまさに作品世界を象徴する存在といえそうだ。
主要キャラのひとり、デイジーが飼っているウサギイヌの「マッドちゃん」は、ちやほやしたくなる愛らしさなのだが……そのじつ、異様に食い意地がはっていたり、ヘンなタイミングで笑い転げたりと、つかみどころがない。さらに、ちょいグロな特性も持ち合わせている。
街の看板やお部屋のインテリア、小道具のひとつひとつさえ、ポップとシュールを雄弁に物語る本作、コマのすみずみまで見渡しながら、ゆっくり楽しむことをオススメしたい。
『シトラス学園 バニラ』著者の山本ルンルン先生から、コメントをいただきました!
本作が気になった方は、試し読み無料公開中の『シトラス学園 キューティー』をチェック!!
さらに山本ルンルン先生インタビューも、本作執筆当時のエピソードが語られる前編と、影響を受けてきたものを語った後編が、大好評公開中!
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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